朋友の姫様(11)
千代が悲しげな目をするのを見た基子は、どこか切なそうに、そしてどこか気恥ずかしそうにその目を細めた。基子の唇が小さく動く。
「友をそのような場所に閉じ込めるなど私には出来ぬ」
千代の胸がトクンと大きく高鳴った。友。その言葉に千代は目頭が熱くなるのを感じた。どうしようもなく胸が熱い。千代はそっと目を伏せる。そして小さく微笑んだ。自身を友と呼び、この身を案じてくれる基子に対する好感と尊敬の念が自身の中で更に高まったことを千代は感じた。
千代の手がそっと基子へと伸ばされる。それを不思議そうに見つめる基子。その様に、千代はまた小さく微笑む。静かに基子の手を取るとそのまま自身の両手で優しく包み込んだ。そして真っ直ぐに基子の目を見つめる。
「友であるならば尚更関係ないなどと仰らないでくださいませ。わたくしを不幸にしたくないと仰ってくださいましたが、その想いはわたくしとて同じなのです。わたくしだって友である基子様に幸せになっていただきたいのです」
その言葉に、基子の眉がピクリと動く。そして瞳が大きく見開かれた。次いでフッとその目を細める。千代を見つめるその視線には、親愛と信頼が満ちていた。
二人は互いに見つめ合ったままどちらからともなく笑う。基子の手の温もりに何故か泣きたくなるのを堪えながら、千代は小さく口を開く。
「わたくし、これまで友と呼べる者はおりませんでした。ですから実のところ、友の幸せを願ったとして、何をどのように行動に移せば良いのか分からないのです。ですが、基子様にお幸せになっていただきたいという気持ちは本当なのです」
千代の突然の告白に、基子は目を瞬く。そして小さく笑った。
「そうか……。実は私もだ」
基子の返答に千代は目を見開く。思わず言葉を失う千代に、基子は小さく笑った。
「互いに孤独であったのだな。……いや、違うか。そなたには太郎が居ったな。孤独などと言ってすまぬ」
「いえ。太郎は……ずっと一緒に育った兄妹のようなものですから。友とは少し違いましょう?」
「兄妹か……。確かに友とは違うな」
「それに、基子様にも春陽殿がいらっしゃるではありませぬか。孤独だったなどと仰られては春陽殿が悲しみましょう」
千代の言葉に基子は苦笑する。
「確かにあれとは幼少の頃より一緒にいるが、あれは私を頑なに友とは認めぬ。友とは互いに認め合っている者のことだろう? 私とあれの間にあるのはあくまで主従関係だ。私は……」




