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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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朋友の姫様(8)

 そして、ゆっくりと口を開く。


「私の言葉だ」


 その言葉に千代の心臓はドクリと跳ねた。


(まさかそんなはずはない)


 千代は咄嗟にそう思ったが、目の前の娘に冗談めかした様子はなく、ただ真っ直ぐに千代を見つめてくる。


 千代は、思わず視線を逸らした。何故だか顔が熱くてたまらない。


「基子様は、御家へわたくしが入るのを案じて反対している……そういうことにございますか?」


 千代の言葉に、基子は自嘲めいた笑みのまま小さく首を振った。


「確かにそれも一つの理由だ。しかし、それだけではない。私は、其方を女の牢獄へなど閉じ込めたくはないのだ」


 基子の言葉に千代は思わず視線を戻す。そしてまじまじと目の前の娘を見つめた。


 勝気な性格ゆえに他者と衝突する事はあれど、牢獄へ入れられるほどの騒ぎを起こしたことなどない。千代には全く心当たりがなかった。


「牢獄? 何故わたくしがその様な場所へ入れられるのです?」


 訳がわからないと困惑の表情を浮かべる千代に、基子は苦笑を浮かべた。


「……大奥……と言えば、其方にも伝わるか?」


 基子の言葉に千代はハッと息を呑む。


 大奥。それは将軍の正室である御台所を筆頭に、多くの女たちが暮らす場所。将軍以外の男性との一切の交わりを禁じられた女の園。


 婚姻相手の家紋を見せられていたというのに、その場所に自身が入ることになるかもしれないなどとは今の今まで思い至らなかったことに、千代は今更ながらに気がついた。


 基子は千代が理解したことを確認すると、更に言葉を続けた。


「ただ一人の男の為にあるその場所は、私の代では無意味と言うものよ。其方も知っての通り、私は女子なのだから……。いや、其方と気安く語らえると言う点に於いては少しは利もあるやもしれぬが、その為だけに其方をあの様な場所に閉じ込めたくはないのだ」


 基子の言葉に千代は呆然とする。基子の話は何処かおかしい。千代の知る事実とは何処か違う。


 千代は何とか平静を保とうと深く息を吸う。そしてゆっくりと吐き出した。それから口を開く。


「しょ、少々お待ちを」


 その声は微かに震えていた。


「……基子様の代とは?」


 困惑に揺れるその視線を真っ直ぐに捉えながら、基子は口を開く。


「私は次期将軍と目されている」


 千代は言葉を失った。目を見開き、ただ呆然と基子を見つめる。それまで黙って千代の後ろに控えていた太郎も、流石に驚きを隠せず目を丸くして基子を見つめていた。


 室内にはしばらくの間沈黙が流れる。

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