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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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朋友の姫様(2)

 基子が口を開きかけた時、廊下から太郎の声がした。


「失礼いたします」


 剣術の稽古から戻った太郎が顔を見せたのだ。


「姫様、戻りました。基子様がお見えと伺いましたので、ご挨拶だけでも」


 基子はその声にピョンと肩を跳ねさせる。太郎はスッと千代の傍らへ寄ると、一度座り頭を下げた。


「お帰りなさい、太郎。丁度良いところへ帰って来たわ。基子様が、貴方が居なくて大層残念がっておられたのよ」


 千代の言葉に太郎は顔を上げると、少し頬を赤らめている基子へと視線を移す。基子は慌てて視線を逸らすと咳払いをした。


「な、何をっ!? 私はそのようなこと言っておらぬではないかっ! ただ、太郎の顔が見えなかったので所在を聞いただけじゃ」


 慌てる基子の心中など知らぬように、太郎はいつも通り千代以外の他者に向ける抑揚のない声で答える。


「日中は剣術の稽古か、寺子屋へ算術を習いに出ております故、基子様をお出迎えすること叶わず、大変失礼を致しました」

「よ、良いのだ。そのようなこと。私が突然来たのだ。気にするな。それにしても、剣術の稽古に算術か。立派だな。励めよ」


 基子の激励に太郎は静かに頭を下げた。


「激励ありがとうございます。ご歓談のところお邪魔を致しました。私はこれにて」


 そう言って立ち上がろうとした太郎に、基子が名残惜しそうな視線を向ける。それに気がついた千代が太郎を制した。


「待って、太郎。貴方もここに居て頂戴」

「はい? ですが、お邪魔でございましょう? お二人で積もる話もあるのでは……」


 千代の言葉に太郎は小さく首を傾げる。しかし、千代がチラリと基子の方へ視線を投げれば、基子は嬉しそうに目を輝かせていた。


「其方が良いのであれば、私は構わぬ」

「だそうよ」

「そうですか……。それでは」


 千代と基子の様子に太郎は納得したように頷き、基子の連れの女と同様に二人から少々距離を取って座り直した。それを確認してから、基子が改めて口を開く。


「実は、今日は其方に確認したきことがあって参ったのだ」

「先ほどもそのようなことを仰られていましたね? わたくしでお答えできることでしたら、なんなりと」


 千代は基子の言葉に小さく首を傾げる。


「そうか……では、単刀直入に聞くぞ。其方、輿入れの話が来ているのではないか?」


 基子はそう言うと真っ直ぐに千代の目を見つめる。その目は真剣そのもので、千代は小さく息を飲んだ。その後ろでは、当の本人よりも大きく息を呑む音がする。太郎だ。

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