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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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朋友の姫様(1)

 それから数日が過ぎ、井上家の面々は落ち着かない日々を過ごしていた。待てども待てども吉岡からは輿入れの話がやってこないのだ。そんな状況を訝りながらも、正道と志乃は娘との時間が持てることにどこか安堵していた。


 そんなある日、井上の屋敷を一人の女が尋ねて来た。


「御免くださいまし」


 しばらくすると来客の応対に出ていた志乃の遣いで、女中が千代の部屋へ来た。自室で読書をしていた千代は、女中から来客の名前を聞くや、あわてて身支度を整え始める。


 一刻程の後、再び井上家の門前で来訪を知らせる声がした。


 千代が足早に門に向かうと、そこには基子が立っていた。今日は町娘のような出で立ちをしている。そんな基子の後ろには、若い女が一人控えていた。


 千代は嬉しそうに声を上げる。


「基子様っ! またお会いできて良かったですわ」

「報せが直前になってしまって済まなかった。其方と話がしたくてな……。良いか?」


 基子は門前からチラリと屋敷内へ視線を投げる。千代はハッとしたように体をずらし、基子へと道を譲った。


「わたくしったら、嬉しくてつい……。どうぞ、お上がりくださいませ。そちらの方もご一緒に」


 千代の言葉に基子は後ろの女を振り返り小さく頷く。女は深々と頭を下げると、二人の後に続いた。


 千代と基子が客間へ落ち着くと、女中がすかさず茶を出してくれた。その足音が遠ざかるのを待ってから、基子は口を開いた。


「そう言えば、今日は太郎は居らぬのか?」


 基子は視線をあちらこちらと動かしながら千代に尋ねる。そんな基子に千代はフフフと可笑しそうに笑った。基子は不思議そうに首を傾げる。


「基子様は、わたくしに会いにみえたのではないのですか? それとも、わたくしのことは口実で、本当のお目当ては太郎なのかしら?」


 千代の冗談めかした物言いに、基子はサッと頬を赤らめる。


「な、何を言っておるのじゃ! も、もちろん其方に話があって赴いたのだ」


 そう言ってそっぽを向いた基子を千代はクスクスと笑う。二人の間には出会って間もないとは思えない程に親し気な空気があった。客間の隅に控える基子の連れの女は、そんな二人の様子が珍しいのか、何とも言えぬ顔で千代と基子を見つめていた。


 基子は仕切り直すようにコホンと一つ咳払いをすると、改めて口を開いた。


「今日来たのは他でもない。其方に聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと? はて、何でしょうか?」


 千代は不思議そうに小首を傾げる。


「其方……」

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