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格下の姫様(10)

「もう、吉岡様ったら。お惚けになっても駄目ですよ? それとも貴方様はご存じないのですか?」


 千代は吉岡の態度に少し困ったような顔を作ると、そっとその胸に手を当てた。そして、上目遣いで吉岡を見つめる。


「泉から湧き出る水を口にした者は……、……人並ではない精がつくとか。それと併せて、泉の石を手に入れた者は、充分な子宝にも恵まれると……」


 もじもじと尻すぼみに言う千代に、吉岡はデレっとした。


「なんだ? そう言うことか」

「巷では知られた話なのでしょう? てっきり貴方様はご存じかと」


 千代は顔を赤らめ恥ずかしそうに俯く。


 その仕草に吉岡がニヤけながら取り巻きの方をチラリと見た。そんな話を知っているかと確認するような視線に、取り巻きたちは互いに顔を見合わせ首を傾げる。


 しばしの沈黙の後、千代は慌てたように顔を上げると、またも可愛らしく瞳を濡らす。


「貴方様は巷のそんな噂などご存じないのですね……。わたくしの戯言など、どうぞお忘れくださいまし。貴方様のお子をこの手に抱き、貴方様のことを待つ日々を夢見てしまいましたが、やはり、わたくし如きがそのような大それた事を願うなど……。身分不相応でした」


 そう言って寂し気に笑う千代に、吉岡は天を仰いだ。そして再びチラリと取り巻きたちに視線を送ると「いや、待てよ……」と言ってニヤリと笑った。その笑みには下卑たものが混じっている。


「もしかしたら、俺もその噂を耳にしているかもしれぬ。なぁ?」


 吉岡に同意を求められた取り巻きたちは勢いよく頷く。


「左様にございます! 私もその様な話を耳にしておりました」

「私もでございます!」

「俺もです!」


 そんな取り巻きたちの言葉に千代は嬉しそうに微笑んだ。


「まあ、皆様もご存じでいらしたのですね? あぁ、良かった」

「いや、まぁ、たまたまだ。俺は本来噂などは相手にしないのだが。しかし……そうか……」


 吉岡は、何やらごにょごにょと呟くと、取り巻きたちと視線を交わし合う。そして。


「そう言うことならば、他の者に行かせるよりも俺が行った方がよかろう。分かった! お前の望みを叶えてやる」


 吉岡がそう答えると、千代はパアッと顔を輝かせた。


「急ぎ出立し、水と石を手に入れてくるとしよう!」


 そう言って豪快に笑う吉岡の眼には、もう先程のような緩みはない。ただギラギラとした欲望だけが浮かんでいた。


 吉岡は取り巻きたちに命令を下す。


「三日後に出立だ! お前たち早急に準備を整えよ!」

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