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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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格下の姫様(7)

「……当方に何か御用でしょうか? 若様」


 低く抑揚のない声で問う太郎に、吉岡はけっと唾を吐く。


「ふん。別に男になど用はない。それにお前は、俺がなぜ声をかけたか分かっているのだろう? だったら、邪魔をするな」


 吉岡は太郎を押しのけ、後ろにいた千代を舐め回すように見る。そんな無礼な態度に太郎は怒りが頂点に達しそうになる。しかし、太郎の袖を千代がそっと引いたことで、何とか踏み止まった。


「では、わたくしに何か?」


 吉岡の鬱陶しい視線に嫌悪感を覚えながらも、千代が涼やかに問う。そんな千代に吉岡は、またも下卑た笑いを浮かべる。


「ほぉ。気の強い女は嫌いじゃない」


 千代の様子に満足そうに頷きながら、吉岡は更に続ける。


「近くで見ても申し分ない。言葉も通じるようだし、これなら問題なかろう」

「何を仰っておいででしょうか?」


 千代は怪訝な表情を見せる。そんな千代を吉岡は再度舐める様に見回した後、太郎の方へ向き直った。そして、太郎の全身を上から下まで見ると鼻で笑う。


「おい、お前。こいつは俺の妾とし、我が屋敷へ連れ帰る。お前はもう用済みだ。どこへなりとも失せろ!」


 そう言って高笑いする吉岡に、太郎は怒りを滲ませ詰め寄った。


「お待ち下さい! その様な道理が通るとでもっ?」


 しかし、そんな太郎の怒りなど全く意に介さず、吉岡はへらへらと笑いながら答える。


「何だ? お前のような下賤者が俺に逆らうのか?」


 顔は笑っているのにその眼は全く笑っていない。太郎は息を飲んだ。旗本の家に逆らえば何をされるか分からない。最悪、養父の高山小十郎や、千代の家にも嫌がらせや圧力をかけられることになりかねない。


 しかし……。


 太郎は大きく息を吸った。ここで引くわけにはいかないのである。


「家同士で決められたことならともかくも! これはあまりにも」

「家同士だと?」


 そんな太郎の言葉を遮り、吉岡が馬鹿にした様に鼻で笑う。


「旗本である吉岡家が格下の家へどのような道理を通すのだ? 妾とはいえ、こやつは吉岡と縁付きになれるのだぞ。むしろ泣いて喜ぶべきことだろう」


 放蕩息子には武士としての誇りもなければ常識もないとみえる。太郎はそう理解した。太郎はじっと吉岡を睨む。道理の通らぬ者に何を言っても無駄だが、だからと言っておいそれと千代を渡すわけにもいかない。太郎は、ぎりっと奥歯を噛み締めた。


 すると、そんな二人のやり取りに千代が口を挟む。


「吉岡様はわたくしをお望みなのですか?」

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