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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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格下の姫様(4)

「じゃあ、一体誰に縁談が来たというんだ?」

「……姫様に」

「姫様?」


 太郎の答えに高山は、しばらく何かを考えるような素振りを見せていたが、やがて首を振る。


「そんな訳はなかろう。井上様はそんな話は一切していなかったぞ。姫様の縁談なんて、あのお方にしたら一大事だろう。騒がない訳がない」


 高山が訝りながら言う。


「やはり、父上も知らないのですね……。実は、姫様ご自身もご存知なかったのです」

「じゃあ、姫様が言うようにそんな話はないのだろう。お前、一体どこでそんなデマカセを聞いてきたんだ?」


 太郎の言葉に高山は呆れた様子で言う。しかし太郎は渋い表情をしたままだ。


「……吉岡の取り巻きたちから、そう聞かされました」

「吉岡? どこの吉岡だ?」

「……旗本の」

「旗本!? 吉岡様のところと縁組ってことかっ?」


 太郎の答えに高山は驚き、思わず大きな声を出した。そんな高山の様子に太郎は小さく頷く。


 吉岡家とは、将軍に遣える旗本の家である。近頃その名には陰りが見え始めてはいるものの、その家格は中々のもの。町奉行の与力や同心と比べたら、雲泥の差がある。そんな吉岡家との縁組となれば、これは井上家にとっては大きな事であった。またとない出世の機会だ。縁談などというものは当人同士の問題ではなく、家と家の繋がりの話なのだ。


 しかし、それは一般的に見ての話。井上正道という男は、出世の道具として愛娘を差し出す様な男ではない。それは太郎も高山も知っている。


「そんな馬鹿な。あんな家へ姫様を嫁がせるなんて……ありえない」


 高山は思わず呟き、太郎は同意する様に頷いた。


「私も信じられないのですが……でも、どうやら本当らしいのです。しかも、南蛮人が正妻では外聞が悪いからと、妾とするのだと」

「……」


 俯く太郎に高山は言葉が出なかった。しかし、すぐに気を取り直して言う。


「まあ、まだ決まったわけじゃないさ。明日、俺が井上様に確かめてみよう」

「……頼みます。父上」


 高山の言葉に太郎は頷く。しかし、その表情は暗いままであった。


 彼らが危惧している旗本の吉岡家とは、あまり良い噂を聞かない家なのだ。最近も、ある米問屋と結託して、米の値を不当に吊り上げているという話が聞こえてきていた。家の周りをゴロツキの様なガラの悪い連中が彷徨いていたという話もある。その他にも様々な悪事に手を染めているとの噂がある様な家との縁組が本当ならば、千代にとって良い縁談であるはずがない。

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