表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/89

青眼の姫様(4)

◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 時は十年程前に遡る。


 一際大きな月がお江戸の町を照らしていた晩のこと。


 与力の井上正道は、同じく町奉行所の同心である高山小十郎と共に夜回りをしていた。


「今夜はやけに冷えるなぁ」


 正道は羽織っている半纏の前を手で押さえながら呟く。


「そうですねぇ。こう寒暖の差が激しいと、風邪をひきかねませんな」


 高山の言葉に正道は苦笑いを浮かべて相槌を打つ。


「ああ、全くだ。とくに、お前の家は隙間風が酷いと言っていたな。風邪などひかれては困るぞ」


 正道と高山は身分の差こそあれど、長年仕事を共にし、気心の知れる仲であった。年齢は正道の方が十ばかり上である。しかし、年齢の差を少しも感じさせない気安さで話す二人の姿は、年の離れた兄弟のようにも見えた。


「ははっ。ご心配痛み入ります。酒でも呑めば温かくなりましょう。くっと一杯引っ掛けて寝ちまえば問題ありませんよ」

「酒か。なら、俺が馳走してやろう。夜回りが終わったら、うちに寄れ」


 正道は歩みを止めることなく、前を向いたまま言う。そんな正道に高山も歩幅を合わせるようにしてついていく。


「それは有難い。遠慮なく御相伴に預からせていただきましょう」


 高山は職務後の一杯を想像してか、嬉しそうに綻ばせた顔を空へと向ける。


「それにしても、今夜は随分と月が明るいですね。月明かりが明るすぎて星が霞んで見えますよ……って、おや?」


 そう言葉を切って立ち止まった高山につられるようにして足を止めた正道は首を傾げた。


「どうした?」

「いえ……一瞬、物凄く星が輝いたような気がしたんですが」


 正道と高山は揃って足を止め、夜空を見上げる。その視線の先には一際明るく輝く月が浮かんでいた。


「何だ? 星など見えんぞ?」


 正道は目を凝らしながら言うが、やはり彼の目には月の輝き以外何も映らない。


「おかしいですねぇ……確かに何か光ったと思ったんですが」


 高山も首を捻る。しかし、すぐに気を取り直したのか、身震いを一つして再び歩き出した。正道もまたそんな高山に倣う形で歩みを進める。だが、数歩進んだところで再び高山の足が止まった。


「おい、どうした?」


 正道は立ち止まって、高山の視線の先を追う。高山は空の一点を見つめている。


「小十郎……?」

「……井上様……また一瞬ですが、確かに星が輝きましたよ」

「何? それはどういう……」


 意味だと尋ねようとした正道であったが、言葉に詰まる。


 明るい夜空を裂くように二筋の流れ星が落ちたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ