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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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格下の姫様(2)

 太郎は千代の言葉に少し考え込んだ様子を見せた。しかし、すぐにハッとした顔になると、その顔色は見る間に赤く染まっていった。


「し、失礼しました。なにか私は思い違いをしていた様です」


 太郎はそう言い残し、脱兎の如く逃げ去って行く。それを千代は唖然としながら見送ったのだった。


(太郎ったら、何だったの? わたくしの縁談と言っていたかしら? そんな話全くないのだけれど……。……まさかね)


 一方、千代の前から逃げ出した太郎は、自身の家で不貞寝をしていた。井上の屋敷と高山小十郎の家は目と鼻の先である。逃げ出したと言っても大した距離ではない。だが、まだ夕餉も済んでいない時分から太郎が高山の家にいることは珍しいことであった。


 千代と太郎は乳吞児の頃から常に一緒に過ごしてきた。寺子屋や剣術の稽古から帰ってきても、いの一番に向かうのは井上の屋敷であり、日中は千代の話し相手になり、高山の家には寝に帰るくらいのものであった。


 それは太郎に限った事ではなく、太郎の養父である高山小十郎もまた同じであった。もともと、男一人気ままな生活をしていた中に太郎という赤子が転がり込んできたのだ。女気もなく、子育てなどまるで分からなかった小十郎を助けたのは、千代の養母である志乃だった。


 日中は志乃に太郎を預けて仕事に行き、千代の養父である正道と共に帰宅をすると夕餉を馳走になり、太郎を連れて自身の家に寝に帰る。そんな生活をしていたのである。


 実は高山は何度か正道に太郎も千代とともに井上の子としてもらえないだろうかと頼んだことがある。しかし、その度に赤子の太郎がひどく泣いて嫌がるので、結局は高山が連れ帰る事になった。


 親らしいことなど何もしてやれていないが、それでも自身に泣いて縋る太郎が泣かなくなるまではこのままで良いかと高山はいつしか思う様になり、こうして今日まで高山小十郎と太郎の親子は続いてきた。


「それで? どうしてお前はうじうじとそんな不細工な面をぶら下げているんだ?」

「……父上」


 いつの間にやら現れた養い親に、太郎は横になっていた体を起こす。


「うじうじなどしておりません」

「しているだろうが。何かなきゃ、お前がそれを持ち出すわけがねぇ。全く、お前は相変わらず分かりやすい」


 高山は呆れたような声音で言う。そんな養父の様子に、太郎も今更ながらに自身の子供じみた行動に気がついたのだろう。高山の言葉に太郎は、「ううっ……」と唸り声を上げた。

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