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格下の姫様(1)

 屋敷への押しかけ騒動があってから数日。千代は、あの見習い男と出くわさないようにと屋敷から外へ行くことを控えていた。


「姫様」


 そんな千代が縁側で庭の様子を眺めながらお茶を呑んでいると、太郎が駆けてきた。寺子屋か剣術道場の帰りだろうか。騒がしく帰って来ることはあまり無いので、何事だろうと千代は首を傾げる。


(何かあったのでしょうか?)


 千代の眼前へとやってきた太郎は膝をついた。何か言いたいことがあるのだろう。しかし、いつもの彼とは違う。どこかソワソワした様子で落ち着きがない。そんな太郎の様子に千代は首を傾げた。


「どうしたのです? 何かありましたか?」

「……何故(なにゆえ)、何も教えて下さらなかったのですか?」


 ようやく太郎の口から洩れたその言葉の意味が分からず、千代は更に首を傾げる。


「ですからっ! 何故あのような者と縁組なさったのかと聞いているのですっ! と言うよりも、そもそも私は姫様に縁談の話が来ていたなどと存じ上げなかったのですがっ!」


 太郎の言葉に千代は目を瞬かせた。太郎が何について憤っているのか分からず、千代はただ呆然と太郎のことを見つめるしかない。


 長い沈黙の後、先に口を開いたのは太郎の方だった。その声はどこか震えを帯びていた。


「私などが、姫様のご縁に口出しして良いわけがないことは重々承知しております。しかし、あの男だけは……」


 珍しく感情的に話す太郎を千代は珍しいものでも見るように、ジッと見ていた。その視線に気がついたのか、太郎はハッとした様子を見せ、そしてそのまま押し黙ってしまった。


「あの……太郎」

「……何ですか、姫様」


 突然訪れた重苦しい雰囲気に、千代は恐る恐る太郎に話しかける。太郎は肩を落として項垂れた様子で、しかし、その目だけは何かを訴える様に千代を見ていた。


「わたくし、貴方が何を言っているのか分からないのだけれど?」

「ですから、姫様の縁組の話です。何故に教えて下さらなかったのですか? 私と姫様は乳吞児の頃からの仲なのですよ? 立場は違えど教えて下さっても……」


 千代は太郎の勢いに押され、たじろぐ。しかし、千代には言わねばならぬ一言があった。


「ちょ、ちょっと落ち着きなさい」

「私は落ち着いております。ただ、何故私にだけ教えて下さらなかったのかと、悲しくて……」


 再び俯く太郎に千代は呆れ顔になる。


「……太郎」

「はい」

「その縁組のことなのですけれど……わたくし、身に覚えがないのですが」

「……は?」

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