高嶺の姫様(7)
そう言うと初は千代の姿を上から下までじっくりと見てから大きく頷いた。
「とてもお似合いです」
その言葉に千代は思わず自身の頬に手をやった。そこはほんのりと熱を帯びていた。
「……でも」
尚も言い募ろうとする千代に、初はにっこりと微笑む。その笑顔には有無を言わせぬ雰囲気があった。
「でしたら、簪もお着物に合わせたものをお作りになっては如何ですか? 小物をお嬢様の瞳の色に合わせたものにすれば、お着物との調和がより一層取れるでしょう」
その言葉に千代は迷いを見せる。
「ちょうど職人が来ているはずですから、少しお待ちになってください」
初は番頭に声を掛けると職人を呼ぶように伝えた。
程なくして現れた職人は、千代と歳の頃の近い男を一人連れていた。職人は千代にチラリと視線を向け軽く頭を下げただけで、如何にも気難しそうな顔をしていた。対して、見習いらしき男はポカンと口を開けて千代のことを見ている。
「どうなさいました?」
初が見習い男に声を掛ける。その声で我に返った男は慌てた様子で頭を下げた。
「い、いえ! 失礼しました」
だが頭を上げると、再び千代をチラチラと盗み見る。その不躾な視線に千代は居た堪れなくなって思わず目を逸らした。
職人が見習いの頭を軽く小突く。
「な、なにすんだ! おやっさん!」
「お嬢様が怖がってるだろうが」
「お、俺別に何もしてねぇよ!」
職人と見習いのそんなやり取りに、初は苦笑する。
「まあまあ二人とも落ち着きなさいな」
「……どうもすんませんねぇ。うちの若いのが。お嬢様の事を不躾に見ちまって、申し訳ねぇ」
職人の言葉に初が苦笑する。
「お嬢様がお美しいのは本当なので、仕方ないね。でもまぁ、教育はきちんとしておくんだよ」
職人は初の言葉にもう一度頭を下げてから千代に向き直った。
「ほんと、すんません」
「……いえ」
「それで、お嬢様のご希望は?」
千代は突然の事に戸惑う。だが職人の男は、そんな千代を急かすことなくじっと待つ。その眼には真摯に仕事をする光があった。千代は戸惑いながらも自身の希望を伝える。
「あまり派手な物ではなくて……」
「はい」
「……わたくしの瞳の色に似たものが欲しいのです」
「なるほど」
職人は頷く。それから考え込んだ。千代は固唾を飲んで職人を見守る。
「合わせる着物は決まっているのかい?」
職人の問いに初が先ほどの萌黄の反物を職人に見せる。職人は再び考え込む。
沈黙を破ったのは、職人ではなく見習いの男だった。




