表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/140

高嶺の姫様(6)

 千代の着物はこれまで志乃が用意していた。千代は母が選んだ物の中から、気に入った物を選んで着ていた。


 だが今は違う。選べと言われても困ってしまう。どれも素敵で甲乙付け難い。それでいて、実はどれも千代の心に響いていないような気がする。自分の好みを知る。それが母の言う「自分を知る」ということなのだろうか。


 千代はいくつもの反物を手に取っては戻しを繰り返す。どのくらいの時間が経ったのだろうか。やがて、一つの反物を手に取るとそれをそっと抱きかかえた。


 その反物は薄い萌黄色に桜の刺繍が施されたものだった。華やかな色使いではないのに、どこか目を引くその反物に千代の眼は惹きつけられた。


「それが良いのですか?」


 志乃がそう聞くと、千代は小さく頷く。


「では、これも頂きましょう。まずはこちらから仕立ててもらえるかしら?」


 志乃のその言葉に初が頷くのを千代の小さな声が遮った。


「あの……でも……」

「どうしました?」

「……この反物は……その……わたくしには合わない様な気がして……」


 そう言って俯く千代の手から、そっと反物を優しく取り上げたのは初だった。千代の手を引き大きな姿見の前へ連れて行く。


「さあ、お嬢様」


 初は千代に反物を当てると、鏡を見るように促した。


 鏡に写る姿はいつもの見慣れた自分の姿だ。どこか鬱々とした雰囲気を纏うその姿に千代は困惑して俯いた。せっかく気になる反物を選んだというのに、あまりにも似合わない。千代はそんな自分を恥じて顔を上げられなくなってしまった。


 そんな千代の様子を見た初が優しく言う。


「お嬢様、顔をお上げください」

「でも……わたくし、やはりこちらは……」


 顔を上げられない千代に、初はそっと近寄り耳元で囁く。


「お嬢様。お着物は、着る方に合わせて仕立てるものですのよ。似合わないなんてことは決してございませんの」


 そう言って、にっこりと微笑む初に千代は戸惑いの眼差しを向ける。


「……でも……でも……わたくしの青眼(あおめ)にこちらは合わないでしょ?」


 いつもならば気にすることもない。自身の特異点。だが、自身で選んだものだからこそ、そこが気になった。


 だがそんな千代の心配を吹き飛ばすように、初は優しく微笑む。その顔には自信と慈愛が満ち溢れていた。


「そんなことは決してございませんよ。こちらの反物は、春を思わせるお色味を使っておりますけれど、春には澄んだ青がとても似合います。そう、お嬢様の瞳の色に良く似たお色ですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ