表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/89

高嶺の姫様(5)

 志乃は早速並んでいる反物を吟味する様に一つ一つ手に取りながら見ている。時折千代の方を見て微笑んでいるので、きっと反物の良し悪しを見ているわけではないのだろうと千代は思った。


 ぼんやり母の動向を見ていた千代に初が声を掛ける。


「さあ、お嬢様もお選びくださいな」


 初はそう言うと一番近くの反物を手に取り、千代の目の前に差し出した。


「え……あの……」


 戸惑う千代を余所に、初はにっこりと微笑むと言う。


「わたくし、見立てには少々自信がありまして。こちら、お嬢様に良くお似合いになると思いますわ」

「はあ……」


 そんな自信ありげな初の言葉に、少々気押され気味になりながら、千代は差し出された反物を受け取った。


 それは、白地の反物だった。


「こちらのお色は月白(げっぱく)と申しまして、月の光を思わせる薄い青みを含んだ白に、金糸や銀糸で丁寧に刺繍が施されたものです。とても素敵でございましょう?」


 千代は戸惑いながらもその反物をしげしげと見つめる。確かに素敵だった。そして、どこか懐かしいと思わせるその色味にしばしの間魅入っていると、いつの間にか傍に来ていた志乃が感嘆の声を上げた。


「まあ、素敵! 千代によく似合いそうだわ」


 千代の手から反物を受け取り、それをそっと千代の身体にあてがった。そしてそのまま少し離れて全体を眺めると満足げに頷いて言った。


「うん、良いわね。お初さん、この反物を頂きますわ」

「ありがとうございます」


 志乃の言葉に初はにっこりと微笑んでそう答えた。


「それからこちらも」


 志乃は、今度は自身で目星をつけてきた反物を千代の身体にあてがう。それは一見すると先ほどのものよりも暗く地味に見える色味をしていた。


「まぁ、江戸紫ですね。こちらは少し渋めの色味になっておりますが、きっとお嬢様がお召しになれば素晴らしく映えることでしょう」

「そうでしょう。これも頂くわ」


 それから幾度も初と志乃は千代に反物を当てがい、その度に何やら話し込んでいる。千代はそんな二人にされるがままにじっとしていたが、やがて志乃が千代に問う。


「千代はどれが良いのですか?」


 突然そう聞かれた千代は一瞬きょとんとして志乃の顔を見てしまった。そんな千代に呆れた様に志乃は言う。


「今日は貴女自身を知るためにここへ来たのですよ。貴女が選ばないでどうするのです? 貴女の気に入る物を選びなさい」


 志乃にそう言われた千代はおずおずと反物を一つ一つ見ていく。


(わたくしの気に入る物……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ