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拾われ子だって、姫なのです!  作者: 田古 みゆう


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魅惑の姫様(11)

「もうそろそろ宜しいですか? これ以上貴方のお相手をしていても意味がありませんので」


 男の方はすっかり余裕を無くしている様だが、千代の方は涼しげな顔のままである。男は焦った様に声を上げた。


「ま、待て! まだ話は終わっていないぞ!」


 千代は男にこれまでで一番冷たい眼差しを向けた。もうこれ以上の問答は無用だと言う様に口を真一文字に結んだまま、懐から一通の文を取り出すと男に差し出す。


「な、なんだ? この紙切れは」


 男は差し出された紙を訝しげに眺めながら聞いた。


「中をお読みになればお分かりかと」


 素気無く答えた千代の態度に男は苛立ちを覚えた様だったが、それでも渋々と言った様子で紙を開くと文に目を通す。やがて文を持つ男の手は震え出し、顔を青くしたり赤くしたりと忙しなく色を変えた。


「こ、これは……」


 男は千代の方を見たが、千代は何も言わずにそっぽを向いていた。


 男が手にしている文には、最近の男の行動が事細かに書かれていた。太郎が調べ上げたものである。


 自身を商人だと言っていたが、その実、連れと遊び歩いてばかりで、まだ実家を継ぐことも出来ない未熟者であること。


 放蕩息子に業を煮やした親から押し付けられた使いも碌にできず、大切な品を誤って破損してしまったこと。


 その失態を隠すため、千代にわざとぶつかり、その拍子に荷を落としたのも故意であったこと。


 そして、既に千代の知るところとなった、虚偽の渡来品の話。そんな数々の愚行を、さも凄い事かのように連れに自慢げに語っていたこと。


 さらには、男が誰にも語っていない千代に対する長年の秘めたる想いまで。


 男は文を持つ手を震わせたまま動かない。どうしてこんな事まで知っているのかと、青ざめたまま呆然としている。男の顔からはすっかり血の気が引いていた。背に冷たい汗が流れる。


 そんな男に千代は言う。


「わたくし、誠実でない方は大っ嫌いですの。貴方のような方がどんなに手を伸ばしたところで、わたくしは決して手に入りませんわ」


 男は千代の顔を見てゴクリと唾を飲み込んだ。


「いいこと! わたくしはお前の様な愚か者とは一切関わり合いたくないのです。これまでの無礼の数々、特別に許して差し上げますから早々にここから立ち去りなさい」


 そう言い捨てると、千代はピシャリと門扉を閉めた。残された男はしばらくその場に立ち竦んでいたが、やがて悔しそうに唇を噛み締めると、転がる様にしてその場から逃げ出して行ったのだった。

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