縁結の姫様(3)
「志乃。少し出かける」
「あら。こんな夜更けにどちらへ」
「まぁ、すぐそこだ。帰ってきたら、酒を飲む。馳走も用意しておいてくれ」
「馳走ですか? どなたかお客人をお連れになるのですか?」
正道の言葉足らずな説明に志乃が首を傾げながら問う。正道はそれには答えず、悪戯っぽい笑みを浮かべた。それから夜空へ少し視線を向ける。その顔はどこか嬉しそうだ。
「春陽殿、二人と赤子を頼む」
それだけ言うと、正道は小十郎と一緒にそそくさと出かけて行った。残された面々は不思議そうに顔を見合わせながら、正道と小十郎を送り出した。
月明かりのおかげで夜道でも苦ではない。正道は小十郎を従えながら、駆け足で河原へ向かう。正道と小十郎が河原に着くと、そこには懐かしい光が二つ寄り添うようにあった。その光に、照らされるようにして二つの陰が立っている。
正道と小十郎は嬉しそうに目を細めた。異国の衣装なのか、見慣れない格好をしているが、それでもその姿を正道たちが見間違うわけがない。
正道は影に向かって呼びかける。それに答えるように陰の一人が大きく手を振り、バッと正道目掛けて駆け出した。綺麗にまとめられた髪に挿された簪が、キラリと光を放つ。
正道の腕の中に、あの時消えてしまった笑顔が戻ってきた。
「よくぞ。戻った」
「只今帰りました。お父様」
〜 完 〜
完結しました!
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明日からは、『推しと清く正しい逢瀬生活』が連載スタートです。
ピュアラブ目指して書いてみます。
よろしければ、新作も追いかけてみてくださいね。