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縁結の姫様(2)

 志乃の言葉に、基子は素直に頷いた。


 縁側に揃った面々はそれぞれに月を眺め、遠い空へ思いを馳せる。明るい夜空を横切るように二つの星が流れた。それ以外は雲もなく大きな夜空を月が煌々と照らしている。


 突如赤子が泣き始めた。基子は慌ててその小さな体を抱き直し、優しく揺する。しかし、まだまだ抱き慣れない基子のあやしでは、一向に泣きやむ気配がない。どうしたものかと基子が途方に暮れていると、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。


「井上様! 井上様!」


 慌てた様子の小十郎が、正道を探してひょっこりと顔を覗かせる。しかし、基子が抱いている赤子が火が付いたように泣いているのを見るや、基子のそばへ飛んでいき、その腕から赤子を抱き上げた。慣れた手つきでその小さな体をゆっくりと揺らす。すると、あれほど泣いていた赤子は嘘のようにピタリと泣き止んだ。


「流石だな。小十郎よ」

「ったりめぇだ。こちとら子ども一人育ててるんだよ」


 基子の言葉に、小十郎は不敵な笑みを浮かべて答える。そんな二人の様子に正道と志乃は互いに顔を見合わせると、やれやれと苦笑を浮かべた。


「そうね。太郎は小十郎さんでないと泣き止まなかったですものね」

「そうだったな。だが、それはうちの姫だ。親を勘違いする前に返してもらおうか」


 正道の深い声音に、小十郎はぎくりと肩を強張らせた。そして、慎重に赤子を志乃の腕に戻す。


「すんません。井上様。赤子の泣き声が聞こえると、つい条件反射で体が動いてしまうんですわ」


 志乃がくすりと笑いを漏らす。


「冗談ですよ。小十郎さん。あなたのお陰で随分と助かってるんですから」


 志乃の腕の中に戻った赤子は上機嫌で手をばたつかせ、父である正道に抱っこをせがむ。その様子に相好を崩しながら、正道は小十郎に問う。


「ところで小十郎。其方、今宵は夜回りの番ではなかったのか? 何故ここで油を売っておる? 基子さんのことが心配で仕事を抜けてきたのか?」


 揶揄うように正道が言うと、小十郎はカァッと顔を赤らめた。そして必死に言い訳をする。


「そうじゃないんですよ、井上様。……あ、いえ。もちろんお基のことは心配ですよ。なにせ、こうもデカい腹ですからね。でも、そうじゃないんです」


 小十郎は慌てた様子で正道へと距離を詰めると、何やら耳打ちをした。


 正道の目が大きく見開かれる。そしてその瞳はゆっくりと細められた。正道は口元に笑みを浮かべると、小さく頷いた。小十郎も頷き返す。

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