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惜別の姫様(9)

 闇深い時分である。暗闇が庭を覆い隠す中、二つの発光体だけがぼんやりと浮かんで見えた。


「あれは」


 正道が何かに気づいたように、小さく声を上げる。正道の声に応じるように太郎が静かに言った。


「私達が移動に使う乗り物でございます。以前納屋で見つけ、今日の日のために、私が密かに保管しておりました」

「そうであったか。あの光る籠が」


 正道が遠い目をして昔を懐かしむ。


 その間にも千代はじっと夜空を見つめている。その視線を辿るように、基子も空を見上げた。しかし、月どころか星すらも出ていない。吸い込まれてしまいそうな闇が延々と広がっているだけである。基子は首を捻った。千代は一体何を見ているのだろうか。


 しばらくじっと闇空を見ていた千代だったが、やがてニコリと笑った。暗闇であるにもかかわらず、何故か千代の顔がはっきりと見えた。まるで、この世の者とは思えない美しいその笑みに、基子は思わずドキリとする。そして気が付いた。千代の身体が淡く光っている。その身体から漏れ出た光が、淡く辺りを照らしていた。


 千代に向けて思わず手を伸ばしそうになった基子を春陽が止めた。ハッと我に返った基子は、伸ばしかけた手を引っ込める。


 巻紙を広げた千代の口から、朗々とした声が響いた。


「□T‘UFA ) U。□+SZUT‘LD=DKTH)、□+K<T‘E 0GGSS‘*QJ%(我が名はチヨナ。我と繋がりし星の核よ、我の願いを聞き届け給え)」


 太郎以外の誰もが、千代の口から零れる音が何を表しているのか分からない。しかし、聴き取れぬ音が紡がれるたび、千代の纏う光がその明るさを増していく。それを見るにつけ、何かとても重要なことを千代が口にしているのだと誰もが理解した。


 太郎は相変わらずの無表情で千代を見つめている。基子も、春陽も正道たちも皆一様に千代の唱える言葉に耳を傾け続ける。


「「□T‘NKEA”‘SVGT%I、TKMKSBBID>X+DMKQAKZUT‘L0QAQJ%(我が身の一部と引き換えに、彼の者とここに記されし者たちの繋がりを断ち給え)」


 そこで言葉を切った千代が、基子へ視線を向ける。千代の言葉を理解できない基子は、何事だろうと小さく小首を傾げた。千代は、それに大丈夫と答えるようにニコッと笑い、次に春陽を見た。そして最後に養い親たちへ視線を送る。


「CDW、BBI#OQU%ID0Z)H } RV ‘QJ%(そして、ここに新たな縁を強く繋ぎ給え)」

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