惜別の姫様(4)
千代はこれからの事を包み隠さず全て打ち明けた。これから基子がここへやってくること。その理由。自分がどのような策をとるのか。
「基子様の秘め事をわたくしが明かしてしまうのは、良くないことだとは思います。ですが、皆様には事情を知ったうえで、わたくしがこの地を去った後も基子様にお力添え頂きたいのです」
黙って千代の話を聞いていた三人は驚きと戸惑いを隠せない様子だったが、次第に仕方がないと呆れ顔を見せる。
「ったく。姫様は最後まで無理難題を言いなさる」
小十郎が溜息混じりに言い、正道と志乃も苦笑しつつも、誰一人千代の申し出に異を唱える者は居なかった。
「我らにどこまでのことができるかはわからぬが、他ならぬ娘の頼みだ。精一杯請け負おう」
正道の言葉に、千代は深く頭を下げた。
「基子様のお世話はわたくしに任せなさい。もう一人娘が出来るなんて、とても嬉しいわ」
志乃はこれから同居することになろう新たな家族に早くも浮き足立つ。
そんな三人に、千代は胸が熱くなるのを感じた。しかし、今は感傷に浸る時ではない。千代はもう一度感謝の意を述べると、話を元に戻す。
「それから、もう一つ」
千代は居住まいを正し、三人を見据えた。その真剣な表情に三人は口を噤む。
「これは、わたくしの心からのお願いになります」
そう言う千代の瞳には不安が渦巻いていた。親たちは不安げに顔を見合わせる。しばしの沈黙の後、千代はコホンと咳払いをすると、願いを口にした。
「今宵は皆様、眠らないでいただきたいのです」
千代の願いに、親たちは揃って目を瞬いた。
「わたくしの力は、基子様のことを御存じの方の夢に作用します。先ほどわたくしが話したことで、お父様たちもその範疇に入ってしまったのです」
千代はそこで一旦言葉を切ると、三人に向かって頭を下げた。
「ですから、今宵は眠らないで頂きたいのです。これから基子様を託すお父様たちには、あの御方の全てを憶えておいて頂きたいのです。いくら望み通りに本来の自分として生きられるようになるとはいえ、基家様として生きてきた時間も、やはり基子様のこれまでの時間だと思うから……」
千代は固い声で告げる。親たちは再び顔を見合わせる。それから誰ともなしに笑いが起きた。
「な、何故、笑うのです?!」
千代は顔を真っ赤にして抗議した。そんな娘の姿がおかしくて堪らないと養い親たちは目尻に涙を浮かべる。そしてひとしきり笑った後、正道が代表して答えた。