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惜別の姫様(3)

「先ほど姫様は私のことを自身の騎士だとご説明されましたが、星へ戻りましたら、我らは契りを結ぶ事になります」


 太郎の言葉に正道は驚き、目を見開いた。それまで啜り泣いていた志乃も赤くなった目を丸くして、腕の中の娘を見る。小十郎に至っては、驚きの余り口をあんぐりとさせていた。千代は三人の視線に思わず顔を赤くして俯く。誰もが固まる中、太郎だけが平然と話を続ける。


「星の元に定められたこととはいえ、千代姫様の父上、母上にはご承諾を賜りたく存じます。私は、これから先も千代姫様のお側にいると誓います。何卒ご快諾のほどを」


 太郎の瞳は揺るぎない決意に輝いていた。正道も志乃も小十郎も、そんな太郎を眩しいものでも見るように見つめる。最初に言葉を取り戻したのは正道だった。真っ直ぐに太郎を見定める。


「承諾も何も、それは私の口出しできる事ではないのであろう?」


 正道の問いに、太郎はキリリとした表情で「それでも」と答えた。正道は困ったように微笑む。


「不承知などとんでもない。私は千代の相手がお前ならば良いと以前から言っておる。千代を……娘を頼む」


 正道と太郎は互いに深々と頭を下げ合う。二人のその様子に、千代は更に顔を赤くした。そんな千代を覗き込むようにして、泣き腫らした顔の志乃が千代の頬を撫でる。


「母も承知します。貴女は太郎の元へ嫁ぐのだと思えば、寂しくなどありませんね」


 そう言って志乃はまた涙を零した。しかしそれは、これまでの涙とは違い、歓喜と安堵を含んでいた。


「それにしても、二人はいつの間にその様な仲になっていたのです? もっと早くに言ってくれれば良かったのに」


 志乃が拗ねたように千代に言う。その顔はどこか楽しそうだ。そんな妻の姿に、正道は思わず笑った。小十郎も口元を抑えてクツクツと笑っている。


 千代は耳まで赤くして「いつの間にも何も……まだ何も」とモゴモゴと反論する。全てを包み込む様な穏やかな空気の中、正道が「よし」と声を上げた。


「時はそうないが、祝いの宴を開こう! 志乃、急ぎ支度を」


 無理やり浮かれた様な声を上げる正道に苦笑しつつ、まだ大切な話の途中であった事を思い出した千代は、姿勢を正し、正道を見つめ直す。


「お気持ちだけで十分でございます。お父様。それよりも、千代は皆様にお願いしたきことがございます」


 千代の言葉に親たちは不思議そうな顔をした。正道が代表して問う。


「何だ? これ以上にとんでもない話があるのか?」

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