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出奔の姫様(9)

 春陽は目を見開き、しばらくの間千代の言葉を反芻していたが、やがて慌てたように大きな声を出した。


「お千代様!」


 春陽は千代を真っ直ぐ見つめると、咎めるように口を開く。


「邪魔立てはなさらないでくださいませ。もしそういうおつもりでしたら、基子様のもとへはお連れいたしませぬ」


 その目は真剣だった。


「本来なら基子様は、貴女様を巻き込むことを望んでおられないのですから」


 春陽の鋭い眼差しに呆気にとられていた千代だったが、それでも負けじと首を振った。


「いいえ! 絶対に中止です!」


 強気で言い返す千代に春陽は思わずたじろぐ。それでもすぐに反論した。


「ですが、基子様は城での暮らしから解放されるべきなのです。お千代様もお解りでしょう。そのためには……」


 必死に言い募ろうとする春陽を、千代は遮る。


「この企ては絶対に中止です! その代わり、わたくしがお二人とも無事に城から抜け出せる妙案を考えますので」


 春陽は千代の言葉に、信じられないという風に目を見開いた。


「そのような手立てがあるはずが」

「いいえ! きっと、あります! わたくしにお任せくださいませ!」


 千代の勢いに押されたように、春陽は一歩後ずさる。千代は強い眼差しで春陽を見つめた。


「わたくしだって、基子様には城を出て自由になって頂きたいのです。……友が心から望んでいることなのですから」


 その言葉に、春陽は黙ってしまった。そして目を伏せる。その表情に迷いが見えた。このまま勢いに任せて押し切ってしまえるだろうかと千代は考えつつ、一方で、勢いで言ってしまったものの何の手立てもないことに焦りを感じていた。


 二人の間にはしばらく沈黙が続いた。千代の焦りが伝わったのか、春陽は困ったように眉を下げた。そして小さく息を吐く。


「分かりました」


 千代はパッと表情を明るくする。春陽はそんな千代に苦笑すると、しかし……と続けた。


「お千代様。私は、この企てを中止するつもりはございませんので」


 きっぱりと言い切った春陽に、今度は千代が動揺する番だった。


「え……」


 思わずそう声を漏らす千代に、春陽は真剣な面持ちで続けた。


「お千代様に妙案があるというのなら、基子様と合流したのちに伺いましょう。ここで問答をして時を無駄にするわけには参りませんので」


 春陽はそう言うと、踵を返して歩き出す。千代は慌ててその背中を追った。


「お待ちくださいませ!」


 千代の言葉に春陽はチラリと振り返ったが、すぐに前を向いてしまう。

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