出奔の姫様(6)
春陽の言葉に千代は胸が熱くなるのを感じた。そして、思わず笑みが溢れる。
「そうであれば良いのですが。わたくしも初めての友に心が弾んだのです。基子様がどのような御方なのか、まだ全然わかっていないけれど……これから知っていけたらと思っておりました。ですから、これでお別れだなんてことになってしまっては嫌なのです」
「そうですか……」
千代の言葉に春陽はどこか感慨深そうな表情を浮かべた。しかし、次の瞬間にはスッと表情を引き締める。
「お千代様。ここでございます」
そう言うや否や、春陽が足を止めた。ようやく目的地に着いたらしい。目の前には森の入り口がぽっかりと口を開けている。
「森ですか?」
「ええ。本日は、夜明けより鷹狩りが行われております。基子様は、頃合いを見計らい朝靄に紛れて森へ迷い込まれる手筈になっております」
千代は緊張でゴクリと喉を鳴らした。
「それって、まさか」
「はい。単独で森へ迷い込まれた故に不慮の事故が……と、そういう筋書きになっております」
千代は思わず春陽の袖を掴んだ。
「だ、大丈夫なのですか? そのようなこと」
千代の言葉に、春陽は首を横に振る。
「大丈夫ですよ。この日の為に、基子様はお一人でも迷うことのないよう、予め何度も森を歩かれておりますので」
春陽の返答に、千代はホッと胸を撫で下ろした。そんな千代の様子をどこか微笑ましそうに見ていた春陽だったが、ふとその表情を引き締める。
「しかし。この先、一刻の猶予もないことは確かでございます。いつ騒ぎが露見するか分かりません。基子様の不在を気づかれる前に少しでもこの場を離れる必要があるのです」
真剣な面持ちの春陽の言葉に、千代はゴクリと唾を飲んだ。基子が自分らしく生きるための計画だ。邪魔は許されない。だが、それでも千代には確認しなければならないことがあった。
「春陽殿、確認させてくださいませ。その計画はどなたもお咎めを受けませぬか? 計画が露見して基子様がお咎めを受けることは……」
千代の問いに、春陽は一瞬言葉を詰まらせた。しかし、すぐに千代の目を見て答える。
「大丈夫ですよ。城では、基子様は脱走癖のある御方と思われておりますので。もし、計画が露見し城に連れ戻されても、いつもの事と呆れられ、少々お小言を言われる程度で済みましょう」
春陽の返答を聞いても千代は納得の表情をしなかった。
「では、計画が上手くいったとして、これからの基子様はどうなりますか?」




