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出奔の姫様(4)

 しばらくして春陽は唇を引き締めて小さく頷いた。そして千代の手を取る。


「わかりました。では参りましょう。基子様は既に城を出ております。急ぎお支度を」


 春陽の言葉に、千代はパッと顔を輝かせた。しかし、すぐに表情を固くする。基子に会えたからといって、一体どんな力になることができるのだろうか。千代の胸に不安が過ぎる。だが、ここで怖気付いてしまったら、もう二度と基子に会うことは叶わなくなってしまうだろう。それは嫌だと千代は思った。一刻も早く基子に会わなくては。この機会を逃したらきっと後悔する。そんな気がした。


 千代が春陽と一緒に家を出ようとしたまさにその時、なかなか戻らない千代を案じて、志乃が心配そうに顔を覗かせた。


「千代。来客は一体どなただったのですか?」


 そして、春陽と連れ立って出かけようとしている娘を見て目を丸くする。志乃が何か言うよりも早く、千代が口を開いた。


「お母様。わたくし、行かなくてはなりません」


 切羽詰まった様子の千代に、状況のわからない志乃は眉根を寄せる。


「このように早朝から何処へ行こうというのです?」


 しかし、基子の状況を話せない千代は、志乃に詳しく説明することができない。何より時間がない。一刻を争う事態なのだ。急がなければ基子に会えなくなってしまうかもしれない。それだけは何としても避けたかった。志乃の問いに、千代は焦れったそうに答える。


「理由は……今は話せませんが、どうしても行かなければならないのです!」


 強い口調でそう言い切る千代に、志乃は更に困惑した。それでも千代の決意の籠った眼差しを見てとると、そっと溜息を吐いた。そして、仕方なさそうに言う。


「……わかりました。今はこれ以上聞きません」

「お母様!」


 パァッと表情を明るくした千代の頬に志乃がそっと手を添える。そして、じっと千代の目を見つめた。


「その代わり、帰ってきたらちゃんと理由を話すのですよ?」

「はい」


 基子に会うことで頭がいっぱいの千代は、あとでどのように説明すべきかなど深く考えずに、志乃の言葉に頷いた。


 娘が気もそぞろな様子で頷くのを見て、志乃はまた一つ溜息を吐いた。しかし、それ以上は何も言わなかった。


 ただ「無茶なことだけはしてはなりませんよ」とだけ念を押す。


 千代は心配そうな面持ちの志乃にニッコリと笑んで見せた。そして、春陽と共に玄関を飛び出していく。


 千代の後ろ姿を、志乃は何故だかそわそわとした気持ちで見送った。

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