禁秘の姫様(20)
千代の胸がトクリと高鳴る。千代はこれまで太郎が自身のそばにいることを当たり前に思っていた。だが今は、太郎がそばにいる事がとても嬉しい。そして何故か妙にそわそわとする。もっとそばにいて欲しいような、少し離れて欲しいような……そんな矛盾した気持ちに、千代は戸惑っていた。これも覚醒する前兆なのであろうか。
千代がそんなことを考えていると、黙り込んでしまった千代を心配するように太郎が声をかけた。
「姫様。いかがなされました?」
「あ……いえ、何でもないわ。なんだか突然に色々なことを知ったので、頭が混乱してしまって」
千代は取り繕うようにして慌てて言葉を紡いだ。太郎は少し考えるような仕草をした後、千代にお伺いをたてる。
「お疲れのようですし、基子様の件はまた後日になさいますか?」
「基子様?」
「はい。姫様は、基子様の秘め事を憂えておいででしたが」
千代はハッとする。確かにそうだった。友となったばかりの基子の大きすぎる秘め事を一緒に抱えることはできないだろうかと太郎に相談していたはずだった。それなのに、いつの間にか星の継承者だの覚醒だのと、話がずれてしまっていた。
「そうだったわ。基子様の件を話していたのよ。なのに、どうして太郎は星の民だの何だのと別の話を持ち出したのよ。わたくしの力になってくれるのではなかったの?」
「それは、姫様が私の献身を御理解くださらなかったからで……」
「そ、そんなことはないわ。血に刻まれた己の使命だなんて言われても、太郎の言う使命が何のことだか分からなかったのよ」
太郎と千代は暫し見つめ合った。やがてどちらからともなく吹き出すと、二人は声を立てて笑い出した。ひとしきり笑い合うと、太郎はコホンと一つ咳払いをして口を開く。
「このままでは、堂々巡りになりそうなので、基子様の件を話しましょうか?」
それから二人は、どのように基子の助けになるべきかを話し合う。
「城を抜け出す事くらいは私達の助力がなくとも出来ましょう。私達がすべき事は、城を出た後の基子様の生活をお支えすることではないでしょうか?」
「城を出た後?」
「ええ。基家様が身罷られた事にするとは言え、あの方が本当にお命を絶たれるわけではありません。その後も、何処かで身を潜めて生きていくとなれば、支えとなる者が必要かと。城から多くの者を連れてくるわけがありませんから」
千代は太郎の言葉にハッとした。言われてみれば全くその通りであった。