禁秘の姫様(17)
しかし、はっきりと覚えているのだ。あのどこか無機質にも感じる騎士の声も、重厚な甲冑が動く時に奏でる独特の金属音も。そして何より母だと名乗った自分によく似たあの女性の顔を。
「太郎はいつからこのことを知っていたの?」
千代の問いに、太郎は少し考えるような仕草を見せてから口を開いた。
「三つか四つの年の頃からです」
「その頃に貴方の言う覚醒をしたの?」
千代の疑問に対して太郎は小さく首を振って否定する。
「いえ。初めはほんの偶然です」
「偶然?」
「ええ。本当に偶然これを起動させてしまったのです。そして、先ほどの映像を目にしました」
太郎はログストレージと呼ばれたそれを回収しながら、幼少期の出来事を回顧する。
「私は赤子の頃に唯一所持していたというこれにどことなく愛着を感じていました。何をするでもなくただ眺め、手慰みに弄ぶ。そんな感じで、あの日も何気なく手の中で転がしていたのですが、ふとした拍子に落としてしまいまして」
千代は太郎の手のひらに収まるほど小さな塊を見つめた。
「そして、あの映像が唐突に映し出されました。はじめは何がなんだか全く分かりませんでした。ですが、あの映像に何処か心惹かれました。それからは、幾度となくあの映像を見返しました」
太郎の静かな声に千代は頷く。
「確かに、あの動く絵は心惹かれるものだったわ」
千代の同意に、太郎はふっと頬を緩ませる。いつもどこか張り詰めた雰囲気を漂わせていた太郎がこんなにも柔らかな表情を見せることに、千代はどこか落ち着かなさを感じた。まるで太郎が知らない人のように見えたのだ。突然そわそわとし始めた千代に、太郎は不思議そうに小首をかしげる。
「姫様? どうされましたか?」
千代はハッと我に返り、慌てて口を開いた。
「い……いいえ! 何でもないわ」
千代の慌てふためく様子を見て太郎はますます不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も聞かず話を続けた。
「私が覚醒したのは、確か五つの時です。父上がこのログストレージを質ぐさにしてしまったのです。金属の塊に見えるので、いくらか金の足しになると思ったのでしょう。その時の私はまだこれが何なのかよく分かっていませんでしたが、それでも私の心の拠り所となっていたのは確かです。私は父上に対して激しく腹を立て家を飛び出しました」
「まぁ? そんなことがあったの? わたくし、ちっとも知りませんでしたわ」
太郎は少し言いにくそうに口ごもった後、口を開いた。