禁秘の姫様(15)
男性は、どこか太郎の育ての親である高山小十郎を思わせる精悍な面差しをしている。千代には、太郎が大人になったらこうなるだろうと自然に思えた。そして、男の隣に立つ女性。その顔に千代は見覚えがあった。動く絵の冒頭で反物を乗りこなしていたあの女性だ。
二人は頭をスッと下げ軽く礼をした。そして素早く兜を被り直す。千代の頭に再び聞き慣れない声が響いた。
「チヨナ姫。戦中のためこのような身なりでお目にかかること、お許し願いたい。私は王のナイトとして、そして、隣に居るこの者は王妃のナイトとして、死力を尽くして務めを果たす所存。どうかご案じなさいますな」
男の戦士の言葉に抑揚はなく、千代には非常に無機質なものに聞こえた。それは、兜越しのせいなのか、それとも、そういう話し方をする者というだけのことか。
千代がその戦士の人となりに疑問を抱いていると、男が大きく息を吐いた。その息遣いに微かな揺れを感じた千代は、男がまだ何か言い残したことがあるようだと悟った。
しばらくの間言葉の続きを待ってみる。やがて聞こえてきた声は、先程よりも人間味の感じられるものだった。
「姫を頼むぞ、タロックよ。お前ならば姫の立派なナイトとなれるだろう。私の息子なのだから。……いつか、姫と共にこの星へ戻って来たお前と酒を酌み交わすことを楽しみにしている。その時はお前の武勇伝を肴に語り明かそうぞ」
男はもう自分と息子の未来が重ならないことを覚悟している。それでも、赤子である姫とそのナイトの未来が明るいものであってほしいと願っているのだ。
千代は胸が詰まった。この戦士は決して無機質などではなかった。心根の熱い戦士だった。千代は、この戦士に会ってみたいと思った。本当の彼と話をしてみたいと。この男の国に対する忠信と覚悟。そして、親として子を想う強い思い。淡々と話す言葉とは裏腹に、きっと胸には秘めた思いがたくさんあるはずなのだ。それらをひしひしと感じて、千代の目には涙が滲んだ。
ふと太郎に目を向けると、憂いを帯びたような瞳で絵に見入っているのが見て取れた。その横顔を見ていると余計に辛くなってしまい、千代はそっと目を伏せた。
戦禍に身を置いているであろう見ず知らずの戦士たちの無事を千代が切に願っていると、先ほどまでとは違う声が千代の頭に響いてきた。
「姫様。タロックは立派に務めを果たしていますか?」
その言葉で千代は悟った。声の主はタロックの母親だと。