禁秘の姫様(13)
自分に良く似た面差しの女性。眼の色が同じというだけではない。髪も顔の造りも、自分の生き写しだと思えるほどに絵の中の女性は千代に酷似している。千代は震える手で太郎の袖を再び握りしめた。
しばらくすると混乱している千代をさらに驚かせる出来事が起きた。なんと絵の中の人物たちが千代に向かってにっこりと微笑んだのだ。千代は驚きのあまり、喉の奥で悲鳴に似た声を上げてしまう。
「ひ……」
千代は堪らず太郎の腕を強く握り締めた。
しかし、不可思議な出来事はそれだけにとどまらない。なんと、絵の中の人物たちがこちらに向かって手を振ってきたのだ。親しげな仕草を見せる彼らに、千代の頭は混乱を極めるばかり。
そんな千代の動揺を気にする素振りも見せず、絵の中の男性が口を開いた。遅れて声が聞こえてくる。それはまるで直接頭に響いてくるような不思議な感覚であった。
「わが愛しい姫よ。大きくなったであろうか。きっと我が妃に似て、美しく育っていることだろう。……そなたの成長を間近で見守ることが出来ぬのが悔やまれてならない。しかし、こうしてそなたが我らの姿を目にしたと言うことは、そなたは息災なのであろう。それだけが我らの唯一の希望だ」
「え……?」
状況が飲み込めないでいる千代を置き去りにして話は進んでいく。今度は女性の方が口を開いた。
「チヨナ。まだ赤子の貴女を手放さなければならない事がどれだけ心苦しいか……。それでも、貴女の身の安全を考えるとこうするしかないの。タロックと共に健やかに育ってくれると信じているわ」
女性の声は涙混じりに震えていた。事態についていけない千代は、ただ呆然と不可思議な絵を見つめ続ける。
「我らはそなたの幸せを願っておる。……妃が言ったように、今はそなたを手放さなければならない状況だという事を理解してほしい。赤子であるそなたとタロックのみを星間移動カプセルに乗せる事がどれほど無謀なことか……。決して我らの本意ではない。それでも、我らにはもうそれしか手段が残されていないのだ。……我らの星は今、滅亡の危機に瀕しておる。しかし、そなたさえ無事でいてくれれば、我ら星の民は希望を失わずにいられるのだ。我らの思いを託したこのログストレージをタロックに託す。タロックよ、どうかそなたの本来の使命の通り、姫を守ってくれ。姫が健やかに成長出来るように力となってくれ」
男性がそう言い終わると、二人の姿は次第に遠のいていった。