禁秘の姫様(11)
千代を守るという大義名分を掲げながらも、内心ではそれが全てではないことをいつしか自覚していったと答える太郎に、千代がびしりと指を突きつけた。
「それよ! それ!」
千代の突然の指摘に太郎は言葉を切り、目を丸くする。しかし、そんな太郎を無視して千代は勢いよく問い詰める。
「貴方はさっきから、わたくしを守ることが使命だとか言っているけれど、そもそもわたくしはそのようなことを貴方に課した覚えはないわ。一体どうしてそのような考えに至ったのよ?」
千代の問いに太郎は苦笑いを浮かべた。
「姫様が完全に覚醒されていればこのようなご説明は不要なのですが」
そう言いながら太郎は懐から小さな袋を取り出すと千代の目の前に差し出した。千代はそれを受け取る。中には何かが入っているようだった。
「これは?」
「どうぞ、取り出してみてください」
太郎に促されるままに千代は小さな袋の中からそれを取り出す。それは、千代の手の中に収まるほど小ぶりの三角錐の金属の塊であった。千代は初めて見るその物体をまじまじと見つめる。千代の手のひらに載っている金属の塊はよく見ると表面には複雑な文様が描かれていた。
「在りし日の記憶をここに封じる。受け継ぎし者の覚醒を以て、在るべき場所へと帰するべし」
千代はその不思議な文様を無意識に口に出して読んでいた。不思議そうに首を傾げる千代に、太郎は感慨深げに目を細める。
「やはり、姫様にはその文字が読めるのですね」
太郎の言葉で千代はハッとしたようにもう一度手の中の小さな塊を見つめた。初めて目にする物なのに、確かに千代にはその文様が読み解けていた。しかしそれが何故なのかと問われれば答えに窮してしまう。ただ単に知っているとしか言いようがないのだが、千代には自分がなぜそれを読めるのか見当もつかなかった。いろはは手習いで覚えたが、このような文様を習った覚えは全くないのだ。
困惑する千代の様子を見守っていた太郎が静かに口を開く。
「この文字を解することこそ、まさに我らの星の民で在ることの証。ですが、そうは言っても簡単には解せぬことでしょう。ですから、今から姫様にあるものをお見せしようと思います」
太郎はそう言なり、千代の手から金属の塊を取るとそれを平らな石の上に置いた。そして頂点にそっと手をかざす。すると頂点から赤い光が照射され始めた。赤い光は太郎の手のひらをしばらくの間赤く染めていた。そしてそれは唐突に光を消した。