沈黙の11ヶ月

作者：ののの

9月が来るたびに、世界は熱狂に包まれた。

それは、人間が年に一度だけ、9月という月だけに性欲を持つという、奇妙な現象のためだった。残りの11ヶ月間は、まるで氷のように冷めた肉体と心を持ち、性的な衝動は全く芽生えなかった。

この現象は、科学者も歴史家も解明できなかった。宗教家たちは神の試練だと説き、哲学者たちは人間の存在意義について議論を交わした。しかし、誰もが9月の到来を待ち焦がれていた。

9月になると、街は色とりどりの光に彩られ、人々は華やかな衣装を身にまとった。バーやクラブは満員で、人々は踊り、笑い、そして愛を求めた。それは、まるで世界が一度だけ解放される祭典のようだった。

主人公の健太は、この現象に戸惑いを感じていた。彼は、9月の到来を心待ちにする人々を理解できなかった。彼は、性欲よりも、友情や家族の絆を大切に思っていた。

しかし、9月が来ると、健太自身もその魔力に抗うことができなくなった。彼は、今まで感じたことのない情熱に駆られ、周りの人々と共に、狂乱の渦に巻き込まれていった。

9月が終わると、世界は再び静寂に包まれた。人々は、まるで夢から覚めたように、日常に戻っていった。健太もまた、9月の記憶を胸に、静かな日々を送っていた。

しかし、彼は9月の熱狂を忘れられず、次の9月が来るのを待ち焦がれていた。それは、まるで、年に一度だけ訪れる、特別な楽園への旅路のようだった。

そして、毎年繰り返されるこのサイクルの中で、健太は、人間の存在とは何か、愛とは何か、そして、9月という月が持つ真の意味を問い続けることになるだろう。