第8話 ラブコメティックデスゲーム
俺のもう一人の幼馴染である柞木田冬姫。
アルビノで元より体が弱かったらしいが、それに追い打ちをかけるように難病にかかっていた。
彼女は海外で手術をすると言って別れたっきりだったが、無事に成功して帰国したようで何よりだ。いやぁ、めでたい。無事に再開できてよかったよかった。
「――……ってなるかァーー!! なんであんなこと言っちまったんだよ冬姫!!!」
とりあえず爆弾発言をした冬姫を連れ、人気のない空き教室へと彼女を連れ込んでそう問い詰める。
「こんな人気のないところに連れ込んですることと言ったら一つですね。レッツ心中、です♡」
「心中はしねぇ! 一旦それから離れろ!!」
「えー? そんなこと言わずに、心中はいつにしますか?」
「そんな『式はいつにしますか?』みたいなノリで言うな……」
「うふふ、流石に教室では心中しませんわ。お望みならばしてしまっても良いですが♪」
クスクスと上品に笑ってみせる冬姫。
病が治って元気に笑う彼女の姿が感慨深く、思わずウルっとなりそうになる。が、それを上回るほど胃に激痛が走っていた。
「ねぇ芹十……嘘、だよね……? 心中とか約束とか説明してよぉ……!!」
なぜか俺たちがいる場所を特定した夏織にもこう言い寄られる始末。目尻には涙が溜まっており、小刻みに震えて俺にしがみついている。
まずいな……このままだと俺の胃が視聴覚室の壁並みに穴が空きまくるぞ。
「えーっとだな……。夏織は知らなかったと思うが、実は冬姫は俺の幼馴染なんだよ。父さんが入院した時に知り合って、そっから仲良くな」
「じゃ、じゃあなんで心中とかの約束したの……!」
「ワタクシは昔重い病を抱えておりましてね。一人で死ぬのは寂しいということで、芹十君に『ワタクシの覚悟ができたら心中して』と頼んだらあっさり了承してくださいましたよ♪」
幼い頃は心中の意味を理解してなかったし、できる限り冬姫の力になりたいと思っていた。なので、簡単にオッケーを出してしまったのだ。
「っ! 悪いけど、私の芹十は絶対に死なせない……!! 諦めて!!」
「……そうですか。ならば一つ、ゲームでもしませんか? 芹十君が夏織側か冬姫側かを決めるゲームを」
俺と夏織は一度目を合わせ、そのゲームとやらの詳細を聞く。
それは勝負事のゲームであり、俺と夏織で冬姫に勝負するというものだった。テストや体力測定、他にもファッションなどの様々な勝負をし、設定した俺たちの体力がゼロになれば冬姫側の勝ち、と。
「どうです? よい冥土の土産になる楽しそうなゲームでしょう?」
「そんなの引き受けない。ましてや芹十は――」
「まぁいいぞ。面白そうなクソゲーだな!!」
「芹十!!?」
詳細な設定もしていない穴だらけなゲーム。しかも俺の生死がかかってるとうデスゲームだ。
こんな面白そうなクソゲー、クソゲーマニアの俺が引き受けないはずもなく……。
「ふふふ……交渉成立、ですね。早速勝負と行きたいところですが、休憩時間がそろそろ終わるので後回しにしましょうか」
満足げに教室を出ようとする冬姫。しかし、「あっ」と声を漏らして何か思い出したのか、踵を返して俺に近づいてこう言ってくる。
「言い忘れていましたが……ワタクシ、柞木田冬姫はあなたをずぅーーっとお慕いしております。芹十君、大好きですよ♡」
彼女は俺の手を取り、顔を近づけて手の甲に口を当ててリップ音を響かせた。
「は、はァッ!?!?」
「ふ、ふふっ……。や、やはりストレートが一番ですが、すごく照れますね。ではっ!!」
そう言い、顔が徐々に薔薇色に染まる。手をパタパタとさせて顔を仰ぎ、脱兎のごとく立ち去る。
そ、そういえばアイツの方がワンチャン距離感バグってんだよなぁ……。
「ったく……。アイツ揶揄ってんのかマジなのかわかんないな」
「むうぅぅ……! せ・り・と!!」
「やっべ。こっちも対処せにゃならんのか……」
夏織はミシミシと音を立てるほど力強く俺の腕を掴み、怒りと悲しみが混ざり合った顔をしている。
「なんであんなゲーム引き受けちゃったの!? 絶対やばい女じゃんか!!」
「いや、その……ハイ。まぁ心中を要求してくるやつだし反論できねぇっす……。クソゲーマニアとして火がついてしまいまして」
「バカ! 本当にバカ!!!」
「う……バカです、スミマセン……」
いつのまにか俺の胸に顔を埋めて抱きついており、離れる様子が微塵もない。
どうやら冬姫という存在は夏織の進化素材だったらしく、ひっつき虫が進化してしまった。
「……芹十を殺そうとする奴は対処する……。絶対に芹十を守ってみせるから……!!!」
「お、おう……ありがとうな」
修羅悪鬼と相対しているかのような勇ましいイケメンな顔をする夏織にドキッとしつつ、俺は罪悪感と胃痛に苦しめられるのであった……。
# # #
―冬姫視点―
「ところでお嬢様サマー、マジに心中しようとしてんスか?」
「え? するわけないでしょう。バカなのかしら」
芹十君と夏織さんとの勝負を引き受けてもらい、教室に戻るまでの帰り道。
同じくこの高校に入学してきたワタクシのメイドの一人に、そんなことを言い放つ。
「まぁ芹十君が心中しようと言ったらしますが……ワタクシはするつもりはありません」
「それが聞けてよかったっスよ〜。でもなんであんなゲームしよーって提案したんスか?」
「……ムカついたからです」
「は?」
ワタクシは芹十君が大好きだ。
病弱で、友達もおらず、アルビノということから稀有な視線で見られる日々だったワタクシに唯一優しくしてくれた男の子。
だが、入院中の彼はいつだって夏織という女のことばかり。ワタクシが海外で手術をすることとなり、会えない空白の期間にさぞ二人は親密になっていると思ったというのに……!
「まさか付き合ってもおらず、コミュニケーションを取るためにイタズラをしていたなんて……。腸が煮え繰り返りますわ!」
二人を祝福するべく転校したというのに、情報屋から得た進展なしの両片思い。スロースターターもいいところだ。
だから――この勝負で完膚なきでに叩きのめし、芹十君を奪ってみせる。
「ふふっ、勝負を良いことにあんなことやこんなことをするのは良いですね……♡」
「お嬢サマ、淑女らしい振る舞いをですネー」
「黙りなさい。恋する乙女は大胆でなければなりませんのよ」
「そーっスか……。ま、面白そーなんでいいっスけどねー」
まぁとにかく、今の今まで行動をしてこなかったことを後悔させてやりますわ。
汐峰夏織……!