第7話 心中したい幼馴染
「ふわぁあぁ……今度は俺も寝不足だな……」
「うん……流石にちょっと眠たいね」
――翌日。
俺たちは大きく口を開けてあくびをしていた。
昨日は無事に家に帰ることができたのだが、就寝の際に不安になった夏織が心配してきて電話をかけてきたのだ。
会話に花が咲いてしまい、深夜遅くまで起きて起きてて絶賛寝不足というわけである。
「まぁでも、これでわかったろ? 俺が死ぬことは天地がひっくり返ってもないって」
「うん、昨日は私のために色々ありがと。……で、でもっ、本当の私は実は寂しがり屋、だよ? そのー……だ、だからっ!!」
そう言うと、夏織は勢いよく俺の腕にしがみついてきた。
何やらもじもじしており、耳まで赤くてなっている。
「だから……芹十が迷惑じゃなかったら、もっと私にかまって欲しいな〜……とか、思っちゃったりして……」
「グハッ!!」
「せ、芹十!?」
美少女からの甘えはこうかばつぐんだ!
だが、これは幼馴染としての好意なのか、異性としての好意なのかわからない。最悪の想定をし、勘違いをするんじゃあないと自分に言い聞かせる。
片膝をつき、心臓を抑えながら息を整えた。
「芹十死なないで!!」
「ふ、ふゥ〜〜! 致命傷で済んだぜ……!!」
「学校休む? ほんとのほんとに大丈夫?」
「尊死で死んでたまるかってんだ。そこまで心配すんなっての」
「あぅ!」
心配そうに瞳を潤ませている夏織の額にチョップをする。
相も変わらず、二日連続での腕組み登校。なので、高校が近づくにつれて下唇を噛んで唸る生徒や、頭にろうそくをつけて藁人形を持つ生徒とかが見えた。
……いや、呪いとかホラーはマジで無理だからやめてくれよ。漏らしちゃうでしょーが。
そして歩き続けて数分、高校に到着した。
教室に入ると、早々に友人である連太郎が気がついて挨拶をしてくる。
「チクショ〜〜! 今日も今日とて汐峰さんと登校とかやってらんねぇぜ! おはようだぜ芹十ォォ!!」
連太郎が軽くベシッと俺の肩を叩いてきたが、殺意増し増しの夏織の眼光がギロリと穿ち「わァ……ァ……」という鳴き声を上げて無様に敗北する。
いと哀れなり、連太郎。
「おはよう連太郎。でもなんか元気そうだな?」
「あ、あぁ。この汐峰夏織が貴様に堕とされたが、なんせ今日は《《転校生が来る》》からな! リーク情報によると美少女らしいしぜ!!」
「はぁ!?」
なん……だと……!? そんな重要イベントが待っていたとは。というか、やはり連太郎の情報収集能力はすごいな。
一体どんな子がクラスにやってくるのかと内心ウキウキしていると、夏織にネクタイを掴まれる。そして、息がかかってしまう距離まで顔を引き寄せられた。
「い゛っ!?」
「……むぅ……」
「そのー……カオリ=サン? 恥ずかしいんですけども」
何かをされるとか言われるだとかはなく、ただただ不満げな顔で俺を見つめている。超近い距離ゆえに、夏織以外何も見えない状況だ。
「……え、えっと、ごめん芹十。ちょっとモヤってなっちゃって……。こうすれば私以外考えられなくなるな〜とか思って……。お、重いかな……」
「へっ? あ、いや〜、まぁ俺は気にしてないし、どちらかというと嬉しいし……。しかもアレだ、女子なんてちょっとくらい重いほうがいいだろ? 性格も体重――もぐあッ!!?」
刹那、俺の腹に激痛が走った。
腹パンされたというわけではなく、的確なツボを押されたようだ。
恐ろしく速いツボ押し……俺も普通に見逃してたね……。
頬を餅のようにぷくーっと膨らませ、俺の腹を撫でてから自分の席に帰ってゆく夏織。飴と鞭の使い分けがさすがである。
(ちゃんと帰ってくれたし、この調子なら引っ付き虫卒業は近いかねぇ。いやはや、めでたいめでたい)
何もなければ自然に元通りになるだろうと考えた。……そう、何もなければ、だ。
「うーっし、お前らおはよー。気づいているやつもいるだろうが、今日から転校生が来るぞー。入ってこーい」
先生が教室やってきて朝のHRが始まる。そして早速お目にかかれるらしい。
教室のボルテージは上がり続け、件の転校生が教室に入ってきたと同時に、それは最高潮に達する。
サラりと伸びる白銀のロングヘアーにルビーのような瞳を持つ、思わず息を呑むような美貌をした美少女だ。
アルビノというものだろう。人生で会うのは二度目か? ……あれ、なんかよくわかんねぇが嫌な予感がするな……。
「皆さん初めまして。ワタクシの名は柞木田冬姫です」
「んん……!?」
その名前を聞いた途端、昔の記憶が一気に蘇り始めた。『そういえば幼い頃、同じ名前のアルビノの幼馴染に病院まで会いに行っていたなァ〜〜』と。
それだけならいい。俺の記憶が確かなら、とんでもない約束をしていたような……!
「そして……そこにいる芹十君とワタクシは幼馴染であり――心中をしてくれるという約束をしてくれた最愛のお方です♡」
「はぁああ!!?」
「「「「「えぇぇぇぇぇ!?!?」」」」」
「ゴフッ」
その発言に真っ先に反応する夏織、再び阿鼻叫喚となる教室。そして血反吐を吐く俺氏。
嗚呼、腹が痛い……。夏織にツボが原因じゃなくて、普通に胃が痛いィィ……!!!
どうやら、もう平凡な高校生活には戻させてはくれないらしい。