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第4話 阿鼻叫喚の教室

 登校し始めてから数十分が経過した。しかし、依然として夏織が腕にひっついて離れようとしていないのだ。

 べったりくっついているし、簡単に取れなさそうな彼女の姿はひっつき虫そのものだった。


「あのー、夏織さん? そろそろ高校が見えてくるし、他の生徒たちの視線が……」

「…………」

「……ハイ」


 夏織の無言の圧に負け、俺はもう口を噤んだ。

 はぁ……今日一日で俺の高校生活がガラリと変わる気がするなぁ。コイツ、なんやかんや言って高校で人気者だし。


 彼女のその美貌やコミュ強なところ、(俺以外)誰にでも優しい性格をしているし、告白なんぞ日常茶飯事なのである。

 そんな夏織がよく分からん男に腕を組んで登校なんかしてたら、嫉妬の炎に駆られた猛獣(クラスメイト)たちが解き放たれて殺されるやもしれん……。


「うーん……やっぱり新たな遺書を作った方がいいのか……?」

「――っ!!」


 ついうっかり心の中で思ったことが口から漏れた。

 そしたら次の瞬間、思い切り近くの塀まで追いやられ、顔の横に「ダンッ!」と音を立てて手をつけられる。俗に言う壁ドンをされていた。


 高校が近づいてきているため、登校している他の多くの生徒にガン見されていて視線が痛い。

 周囲で見ていた人からは黄色い声も聞こえてくる始末だし。


「ひえっ」

「芹十……! なんで、なんでそんなこと言うの!!」

「ご、ごめんって! このままだとクラスメイトとかに嫉妬で殺られそうだなァ〜とか思っただけだから! お前が思ってるような感じじゃねぇって!!」


 ずいっと顔を近づけられ、やっぱり整った顔してんなぁと一瞬思った。だが、また心配させてしまったと自責の念に駆られる。

 夏織の目尻にうっすらと涙が溜まり始めようとしていたが、彼女はゴシゴシとそれを拭った。


「……芹十を殺そうとする奴らは全員、私が()()するから……!!」

「お、おう。助かる……。対処……?」


 男の俺でも惚れてしまいそうなほど、夏織は覚悟がガン決まりな顔でそう宣言する。

 すまねぇ、夏織が好きなみんな。どうやら俺は彼女を大きく変えてしまったらしい。


「芹十、行こ。大丈夫、何があっても四六時中離れないから」

「いや、それは迷惑だからやめてほしい」

「……むすっ」

「可愛らしく頬を膨らませてもダメだ。俺にもプライベートというものがある」


 ぷくーっと膨れた頬をしぼませ、再び歩みを進める。夏織は定位置である俺の横にピタリとひっつき、腕にひしっと抱きついついた。

 先が思いやられるが、受け入れるしかないだろう。これが俺の贖罪ってやつか。


 高校の門を通り、下駄箱まで向かっているのだが、やはり視線が痛いったらありゃしない。


「おいあれって……」

「汐峰さんじゃね!?」

「隣の男誰だよ」

「あがががががが脳ががががが」

「こ、このままじゃ全校生徒の五割くらいの脳が破壊されるぞ!?」

「逃げるんだぁ……」

「もしかして夏織さんの彼氏!?」

「いやいや、流石に……え、まじ?」


 案の定といったところか。過半数の生徒たちからの集中豪雨を浴びる。

 ヒソヒソと話す者や、脳が破壊されたのかのたうち回る生徒。さらにはもう既に呪詛を唱え始める生徒までいた。


 今日でこの高校が一気に変わるかもしれないな……。それが吉と出るか凶と出るかは分からないが。


 なんだか胃がキリキリと鳴り始めるが、俺たちは歩みを止めずにとうとう自分の教室へと足を踏み入れる。


「おっ、芹十おっは……はぁッ!? な、なんで汐峰さんとお前が仲睦まじげにしてんだァ!!?」


 教室に入るや否や、友人の連太郎が声を荒げてそう言った。いかんせんバカでかい声だったため、お喋りに夢中だったクラスメイトもこっち見る。

 なんてことしてくれたんだ連太郎この野郎。


 おかげで俺たちは、警察官もびっくりするくらい迅速な動きで一瞬にして包囲された。

 「なんで腕組まれてるんだ」とか、「どういう関係だ」とか。聖徳太子も鼻血出して倒れるくらいの質問攻めが始まっている。


(地獄か? 地獄だな。誰か助けてくれ)


 虚無の顔をしながら絶望していると、夏織が救いの一言を放った。


「芹十は私の幼馴染なの! そんでもって――()()()()()()()()だから!! それ以上でも以下でもない!!」


 耳まで真っ赤にして弁明をしてくれた夏織。

 ……いや待て。その言い方だと火に油を注ぐ言動なんじゃないか?


 ピタリと質問攻めは止んだが、さらに鋭い視線が突き刺さり始める。主に男子から。

 だが、番犬が如く睨みを利かせる夏織に畏怖して子犬のように縮こまっていた。


(俺の平凡な高校生活が終わった……)


 胃の痛みが加速しながらも、俺は自分の席についた。

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