第15話 主人公の天敵
結局、冬姫は最初に試着したワンピースを着て買い物をすることになった。
最後の服装で歩かれたら、気が気でなくなるから危なかったな。二人は内緒話して俺の罰ゲームを話し合っていたみたいだが、一体何をされるのやら。
何も聞かされないまま二人に連れられた先は、ショッピングモール内にある映画館だった。
「映画でも見るのか?」
「そう。今やってる映画にさ、〝呪海散歩〟っていう映画があるの」
「芹十君は昔から苦手ですよね。おばけさん」
「ッスー……」
思わず息を呑み、踵を返して駆け出そうとしたのだが、両肩をガシッと二人に掴まれて逃げられない。
「や、やだ!! 幽霊とか呪いとかはマジで無理なんだ!! 今日の夜一人でトイレ行けなくなっちゃうだろッ!!!」
「大丈夫だよ芹十。私ならトイレでもどこまでも一緒にいてあげるからさ……♡」
「そうです。幽霊なんて怖くなくなるほど可愛がってあげますからね♪」
「や、ヤダーーーッ!!!」
冬姫だけならまだしも、俺より力が強い夏織にズルズルと引きずられて映画館の中まで連れていかれてしまった……。
まぁ俺は所詮敗北者じゃけぇ。大人しく言うことを聞いてチケットを購入し、上映される部屋へと移動し、椅子に座る。
右には夏織、左には冬姫と、俺を挟む形となっていた。
「ふ、フ〜〜。あー、もっかいトイレ行こっかナ〜〜……」
「さっき二回も行ったでしょ? 芹十ビビりすぎ」
「ふふ、ワタクシと手を繋ぎましょうか?」
「うん……」
藁にでも縋るほどビビり散らかしているので、冬姫の好意をすんなりと受け入れて差し出された手を握る。
「……はぇっ!!?」
「ハッ!? な、なんだよ冬姫!!」
「あ、い、いえ。なんでもありませんよ!」
「ビビらせないでくれ……っ!?」
いきなり大声を出した冬姫に驚いてそちらを見るが、いつもより顔が赤い彼女の姿だけが見えた。
びっくりするからやめてほしいね……本当に……。
「むぅ! 芹十、私とも手ぇ繋ご」
「えっ、でもそうなると首だけでしか不条理な現実の回避が――」
「手! 繋ご!!」
「アッ、ハイッ」
夏織の圧に負け、大人しくもう片方の手を繋ぐ。
側から見れば両手に花のハーレムクソ野郎なのだろうが、そんなことよりホラー映画が嫌だ。コワイ。
もうこのまま始まんなくてもいいと思っていたが、そんな願い虚しく映画が始まる。現実は非情である。
「あ〜バカバカ……。なんでそこ入んだよォ〜! 後ろ振り向くんじゃねぇよテメェ……うわっ、イヤッ! ホホホ……!!」
映画が始まり、俺からはリアクションが飛び出ていた。多分、この映画館内で俺が一番コレを楽しんでいる自信がある。
幸いにも人はあまりいないため、叫んでもあまり文句は言われないだろう。
ふと、映画にビビりすぎて握力が強まってしまっているのに気がつき、痛くなかったかと左右に確認した。
「あ……す、すまん。ちょっと力んじゃってた……」
「えへへ、芹十も中々握力強いね。もっと強く握っていいからねっ」
「ああ、ワタクシの肌は弱い故……跡が付いてしまいますね♡」
おかしい。ホラー映画を見ているはずのになぜこんなにも二人の顔が赤く、恍惚とした表情になっているのか。そんなに映画が面白いのだろうか。
俺はホラー映画だけでなく、この二人にも若干の恐ろしさを抱く。
その後もホラーシーンにビビりながらも、なんとか無事(?)に見終えることができた。
「フ、フフ……今日はオール確定かなァ〜……」
燃え尽きちまったよ、真っ白にな。
精気はなくなり、映画を観る前よりしぼんだような気がする。多分カロリーがだいぶ減って痩せたと思う。
だが、あまりに怖い思いをしたため、今の今まで気がついていなかった。二人と手を繋ぎながら歩いているということに。
「……あッ!? なんか視線感じると思ったらこれのせいじゃねぇか!!」
美少女二人と手を繋ぐ普通の男。捕まった宇宙人みたいな感じで見られているのだろう。
「あ〜あ、バレちゃった」
「もう少し堪能していたかったのですがねぇ……」
俺が手を離すと、二人とも名残惜しそうにしていた。
そんなに俺のビビリ姿が滑稽だったのだろうか。蛙化現象してもおかしくなかったほどビビってただろうに。
「あ、芹十。幽霊憑いてる」
「ミ゜ッ」
夏織の言葉に即座に反応してしまった俺は、夏織の腕に一瞬にして抱きついていた。
「ふ、ふふふっ。真っ先に私を頼ってくれるんだ。へぇ〜……♡」
「はッ……!? お、おい夏織! たちの悪いイタズラはやめろ!!」
「むっすぅ〜〜! あなただけズルいですっ! ワタクシにも抱きついてください、芹十君っ!!」
「いや……そろそろ幽霊とかより人の視線が怖くなってきたからもうやめよう……」
夏織は勝ち誇った笑みを浮かべ、冬姫は雪見だいふくのように頬を膨らせて妬いていた。
周囲にいる人たちの視線は言わずもがな、ほぼ全てが俺たちに向いており、胃がキリキリ鳴り始めるのであった。




