第13話 ダセェでごぜェますお嬢様
清々しい休日の朝……と、いうよりも昼が近い。
最近だと夏織のイタズラもなくなったし、優雅な時間を過ごせると思った矢先だった。
「ふわぁぁ……ちょっと寝すぎたな。……ん? え、え〜〜っと、ナニコレェ……」
すっかり登っている太陽の光がカーテンの隙間から入り込んでいるのだが、それがまるでスポットライトのようにこんもりと隆起した布団を照らしている。
だらだらと冷や汗が流れ始めるが、意を決して布団をめくった。するとそこには、スヤスヤと眠る夏織の姿が……ッ!!
「キャーーーーッッ!!!!」
「んがっ!? な、何!! 敵襲!!?」
乙女のような甲高い悲鳴をあげる俺に、それに驚いて飛び起きて臨戦状態となる夏織。
普通逆な気がするが、これが現実であった。
「な、ななな、なんで夏織と一緒に寝てんだ……!?」
「はっ、そういえば芹十を起こしにきたけどそのまま寝ちゃってた……」
「何やってんだお前ェっ!!」
お洒落な格好をしている夏織だし、相当早起きして準備をしていたのかもしれない。
なら寝てしまうのは仕方ない……かもしれんが、心臓に悪いから流石に同衾はやめてほしいなぁ……。
「あぁ……メイクも少し崩れちゃったし髪もボサボサになっちゃった……」
「なんやかんやでもうすぐ待ち合わせ時間になっちまうな。できることがあればなんか俺も手伝おうか?」
「えっ、いいのっ!? じゃあ――」
夏織は机に鏡を置いて化粧直しをし始め、俺は櫛を持たされて髪を梳かすことになった。
「女の子は髪を触られるのが嫌いだってよく聞くが……いいのか?」
「……よく知りもしない人に触られるのはもちろん嫌だよ? けどさ、心から信頼してる人なら嫌じゃない。……というか、す、好き、だよ?」
「お、そ、そうか……」
「もう! 恥ずかしくて変な顔してるかもだし覗き込まないでね!?」
とは言っているが、机の上に置いてある鏡には映ってしまっている。顔を赤くし、行き場のない羞恥心をどうにかしようとするその顔が。
まぁ見たらダメっぽいし、見なかったことにしよう……。
俺は渡された櫛を使い、初心者丸出しの手つきで夏織の髪を梳かし始める。
もはや櫛必要なくね? と思うほど滑らかだし、艶があった。
「毎朝こうだったらいいのになぁ」
「悪いが俺も朝の時間は自分のことで手一杯だ」
「そうだよねー……」
「……まぁ、どこかの誰かさんがイタズラの代わりに早く起こしてくれたらできなくもないけどな」
「! へぇ〜、ふぅ〜〜ん♪」
夏織は平常心を装っているのだろうが、鏡に映っている彼女の顔はだらしいことこの上ない。
ニヘラァっと笑い、重力に逆らう口角が見えるは見える。
その後もスムーズに手を動かしていたのだが、突如として俺の部屋の扉がガチャリと開く音がした。
「ちょっと二人とも〜? もうそろそろお出かけの時間じゃ――って、あらあら、ステキな予行演習ねぇ〜♪」
「か、母さん! いきなり部屋に入ってくるなァ!!」
「思春期ねぇ〜。ごゆっくり♪」
突如として乱入してきた母親にこの光景を見られてしまったので、今後はなにかといじられそうだ。
「はぁ……またいじられんのかな」
「まぁ、芹十はいじり甲斐があるから」
「なんだソレ。聞き捨てならねぇぞオイ」
「芹十早く続きしてー」
まぁそろそろ出ないと待ち合わせ時間に間に合わないかもしれなくなるし、さっさと用意を済ませてしまおう。
再び手を動かし、俺は夏織の手伝いを続けるのであった。
# # #
――ショッピングモールの噴水前にて。
ここが冬姫との待ち合わせ場所なのだが、どうやら俺たちの方が早くついたみたいだ。
「にしても目立つな、夏織」
「人混みが多いから私から離れないでね。いつ芹十を狙う刺客が来るかわからないし」
「貴様は何を言っている?」
夏織という美少女にカッコいいお洒落な衣装。鬼に金棒どころか、鬼にロケットランチャーくらいあるかもしれん。
男女問わず目を奪って行く夏織に呆れながらも、俺たちは冬姫を待ち続けた。
しばらくして、奥の道路に黒い高級車が止まるのが見える。絶対あれだろうなと確信したのだが、降りてきた人を見てそれが揺らいだ。
「え……いや、ゔーん……?」
その人物は短パンにサンダル、「おされ」と書かれた白のTシャツを着ていた。とてもおしゃれとは言えない人物だ。
「お二人ともお待たせしてしまい申し訳ありません。ふふっ、まず最初はファッションセンスバトルでしたよね? ワタクシと夏織さん、どちらが優れているでしょうか♪」
紛うことなくその人物は冬姫だったのだが、俺たちは絶望的なファッションセンスに絶家している。
冬姫のメイドやらの使用人たちを一瞥したのだが、苦虫を噛み潰したような苦しそうな顔をしていた。
「……冬姫はっきり言わせてもらうぞ」
「はい!」
「くっっそダセェでごぜェますお嬢様」
「……はぇ……???」
宇宙と繋がったように放心状態となる冬姫。「よく言ったッ!」と言わんばかりにガッツポーズをする使用人たち。
まぁなんにせよ、今日の最初の予定は決まったな。……服屋に行こう。




