第10話 能ある爪は鷹を殺す
「あ痛タタタタタ!! ギブギブ!!!」
「問答無用っ!!」
休み時間にて、俺は空き教室にて美少女に乗っかられてご褒美を受けている……というものだったら良かったのになぁ……。
現在、夏織に足裏ツボ押しの刑に処されている真っ最中である。
夏織の親父さんが鍼灸師だから色々教わっているらしく、よく実験台になっているのだが、彼女の腕前は確かだ。
「冬姫助けてくれ! このままじゃ健康体そのものになってまうよォ〜〜!!」
「あら、それは困りますわね。ワタクシと堕落しきっていただきたいのに……」
しばらくしてツボ押しの刑から解放され、立ち上がる。めちゃくちゃ体が軽く、ドーピングでもしたような気分になった。
「授業中にその女とイチャイチャして……さぞスリル満点で楽しい授業だったみたいだね」
「いや、あのですね……えーっと」
「すごい心配してたのに……! 二人で楽しんでさぁ……!!」
「ひぃ!」
教室にあった椅子に座ると、ドカッと音を立てて俺の上に座る夏織。蛇に睨まれた蛙のように、俺はカチコチに固まる。
多分何言っても意味ないんだよなぁ。なんとかして機嫌を直してもらわなければならないが……。
「ねぇ芹十、なんとか言ったら?」
「うふふ、ビクついている芹十君も可愛いですね♡」
この空間にはSの方しかいらっしゃらねぇですか。終わってやがる。
「まぁ何はともあれ、先程で芹十君が一勝したため、体力は30から31に増えましたよ? よかったですね」
「さいですか。だが今の俺のライフはゼロだぞ……」
「……しかし、ちまちま勝負するのも良いですが、ライフを三つかけた勝負をしませんか? 次の期末テストで」
ニヤリと口角を上げて不敵に笑いながら、そんな提案を俺たちにしてきた。
まぁスリルを味わうのは嫌いではないので、俺は二つ返事で了承する。夏織は不満げだったが……。
「そうですねぇ、お二人の点数の和を二で割って、かつ25点ほど加算したもので勝負するというのはどうですか?」
「……ちなみにだけど、あんたは普段どんくらいの点数取れるの」
「勿論全て100点満点ですよ♪」
夏織の質問に自慢げに答える冬姫。
俺は普段ド平均の点数で、夏織はお世辞にも良い点と言えない点数だ。あまりにも不利な戦いになるだろう。
「〝不利な戦いになる〟と思っていらっしゃるでしょうが、そんなことはないでしょう? ただ夏織さんが頑張ればいいだけの話です」
「まるで俺が高得点を取れるみたいな言い振りだな、冬姫」
「……前回の中間テスト。数学の平均点が64点、芹十君も64点。現代文は71点、芹十君も71点……。ふふっ、全てドンピシャで平均点を取っている芹十君は何者なんでしょうねぇ?」
「…………」
先ほどよりも口角が上がっている冬姫は俺に熱い視線を送っていたが、俺は逆に彼女を鋭い視線で睨み返した。
なぜこいつが前回の俺のテストの点を知っているのかなどは怖くて聞けないな……。
「こんな話も聞きました。お二人が通っていた中学校で、生徒会長に立候補した方がいたと。カリスマ性を見せ、生徒会長は確定したと思われていた。ただある日、裏でしていた悪事が全てバレて失脚した、と……」
「おい冬姫。何がいいたいか知らないが――」
「〝能ある鷹は爪を隠す〟。彼は爪を上手く使おうとしましたが、〝爪〟を裏切る行為をした。能ある爪が鷹を殺したということです。そうですよね? 彼を殺した――松浦芹十君」
えぇ、なんでバレてっかなぁ……。怖くて夜しか眠れねぇよ……。
これは言い訳しても無駄だなと思い、深い溜息を吐いて両手を上げた。
「降参だ。そーだよ。アイツに頼まれて色々してたが、気に食わなかったからボコボコにした。……何が望みだ」
「別にワタクシは脅そうとしてませんし、やろうと思えばワタクシの家すら没落させられるでしょうに……。ただ何故、普通のふりをしているのですか?」
……色々理由はあるが、まぁこれを機に話してもいいか。ワンチャン夏織の機嫌も治るやもしれんし。
「俺の頭が良すぎると、高校受験の時大変だと思ったからだ」
「? どういう意味です?」
「夏織のためだ。昔にずっと一緒にいようねって約束したし、無理に受験のハードルを高くしたくないって思ったから、今の今まで普通のふりをしてただけだ」
俺が正直に話すと、冬姫は面白そうな顔が一変。頬を膨らませて夏織の方を睨んでいた。
対して件の夏織はと言うと……。
「わ、私のために……芹十が……? えへ、えへへへ♡」
スライムみたいにフニャフニャしただらしない顔になっている。よほど嬉しかったらしい。
鋭い眼光は消え失せ、甘い声を漏らしながら俺に抱きついてきた。
「えへへ、私芹十のために頑張るね」
「お、おう。じゃあ良い点取れたらなんでもしてやるよ」
「なんでも!?!? …………。うわぁあああああ!!!!」
驚愕のちに沈黙。そして発狂する夏織。
とうとう頭がおかしくなっちまったのかと思ったが、俺を見る目が肉食獣そのものでめちゃくちゃ怖い。なんか目もハートになってる気が……。
「じゃあさ、今度の休日に色々買いに行こ。テストのためにいっぱい買う」
「おー、いいぞ」
「ずるいですっ! ワタクシも参ります!!」
「えぇ……まぁいいけど」
こうして、休日に美少女二人とお出かけするというなんとも羨ましがられるであろう約束を取り付けた。




