第一話 とある夏の日に
「聞いているのか、山田聡!」
「うう....」
とある夏の日、俺は目を覚ました。視界が開けるとそこは、いつもの日常だった。
「聞いているのかと言っているんだ!」
どうやら授業中らしい。それも社会、憎き平林の授業だ。
「はいっ、聞いております!」
突然大きな声を出されたからか、少し可笑しなことを言ってしまった。クラスがどっと笑う。
その瞬間、運動場側の窓からもの凄い勢いの風がブワッと吹いた。クラスの女子達が声を上げる。教室がざわつき始めた。平林が口を開く。教室が静まり返り、何事もなかったかのように授業が進行していく。
なぜだろう、胸のあたりがきゅっとする。懐かしい様な雰囲気も感じる。俺には、そんなことがよくあった。
一度誰かに相談したこともあった気がするが、遠い記憶のようだ。
チャイムが鳴る。授業が終わった。今は六時間目で、俺は帰宅部だから、これで家に帰ることができる。
「なあ、山田、大丈夫か?」
「なにが。」
「だってお前、最近授業中よく寝てるじゃんか。」
「ああ、大丈夫だよ。」
クラスメイトと他愛ない会話をしながら帰る。それもまた俺の日常だった。やがて分かれ道になり、お互いの家に向かって歩き出す。俺の家があるのは駅から十分、中学から十五分の至って普通の住宅街だ。顔や身長、成績さえも俺は普通だった。親は共働きで生活にも困っていない。持て余す程の金も無かった。たった一人、小5の妹がいるが、俺と同じく普通の人生を送っていくのだろう。
そうこう考えているうちに家が見えてきた。屋根が赤色の一軒家。周りの家に家根が赤色の所はないから直ぐに分かる。この街に通る電車の窓からも目を凝らせば見つけられるハズだ。
鍵を開けてドアを開く。靴を脱いで上がれば直ぐにリビングだ。家には誰もいない。机を見るといつものように置手紙が、夕飯と共に添えられていた。どうやら今日の夕飯はカレーライスらしい。ちょっとテンションが上がる。
人間というのは少し気分がよくなれば意外となんでもできてしまうものだ。階段を上り自分の部屋の勉強机に向かってみる。突然、当たり前のように眠気に襲われた。
「こんにちは!やっと目が覚めたわね!」
「うう....」
「あら、どうしたの?」
「いや、どうしたっていうか....」
重い頭を上げる。床....一面に緑の芝生が広がっている。少し盛り上がった丘の上にいるようだ。え、誰と?おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、状況が全く掴めない。ここはどこだ?
「初めまして。私はアンナ、よろしくね!!」
いや....誰?
「んー?やっぱ調子悪い?」
大きな三つ編みが一つ、丁寧に手入れされていそうな金色の髪に、青いくりくりとした可愛い目。とても美人だ。いや、どちらかというと可愛い系か?
どう考えても俺はこんな子知らない。今すぐにでも家に帰る方法を考えるべきだ。でも....この少女、アンナがなにか知っているかもしれない。家に帰る方法を。それに、見たところまだお昼といったところだ。ちょっと遊んで帰っても問題はない。
「俺の名前は山口聡。サトシとでも呼んでくれ。」
「わーい!サトシ!!」
「ちょっ..」
アンナが俺に抱き着く。俺の頬が赤色に染まる。見渡しても、自然、自然、自然....空は快晴だ。
まさにここは、ユートピアのようだった。
新シリーズ、真・ユートピア!!が連載開始です!今後この作品、私の作品に面白いと思ってくださった方は、ぜひ評価して頂けるととても励みになるので下の評価、もし宜しければお願いします!