時計
ガシャンと音を立てて壁にかけてあった時計が落ちた。気に入っていたので残念に思う。
買いに行かないとだなと思い早速出かける準備を始めた。
別にスマホがあるので時計はなくても時間はわかるのだが何もないと部屋が殺風景になってしまうので時計をかけていたのだ。
百均にでも行って買おうと思って歩いていたのだが、百均の隣に雑貨屋を見つけた。見るからに古そうな外観でこんなところにあったっけとも思ったが、あまりここら辺には来ないので自分が知らないだけだろうと思った。俺は歴史的な建物やものや古い物が好きなので、年季の入ったいい時計があるかもしれない。そんな期待を胸に入ってみるので入ってみることにした。
入るとすぐに80歳くらいのお婆さんがいらっしゃいと声をかけてくる。こんにちはと挨拶を返し店の中を物色し始めた。時代を感じさせる色々な置物や茶碗などが置いてあり一層期待が膨らんだ。一通り店内を見回ったが懐中時計はあったが掛け時計は置いていなかった。残念に思い、店をあとにしようとするとお婆さんが何か探しものでもあったのかい?と聞いてきたので、素直に壁にかけられる時計を探しているというと、あれに惹かれたのかいとよくわからないことを呟いたあと少し待ってておくれと言われた。
10分くらいして奥からお婆さんが少し大きめな箱を持って戻ってきた。これはどうだい?と箱の中身を見せてくる。そこには少し古臭い時計があった。この古臭さがなんだか気に入ったのだが、それと同時に気になるところがある。時計の文字が0から24まであるのだ。普通であれば1から12までだし、もし24時間の時計があったとしても1から24までではないかと思った。なので、そのことを聞いてみると、作った人が間違ってしまったのだと言った。そして、売るつもりはないので店に置かず裏にしまっていたのだそうだ。でも、いい時計がないかと俺が尋ねたので奥から引っ張り出してくれたのだという。確かに見た目や雰囲気はいいし、俺は実用性を求めているわけではなく、あくまでインテリアとしての時計を求めていたのだからこれでもいいかなと思った。そうして、値段を聞くとさっきも言った通り売り物ではないから気に入ったのなら持って行って構わないと言ってくれたのでありがたく頂戴することにした。店を出るときにお婆さんにお礼を言うと、とても笑顔で気をつけてねと言われたのですごく親切なお婆さんだなと思った。
その後家に帰り、時計の時間を合わせネジを巻くとちゃんと動き始めたのでひとまず安心した。しかし、分が読みづらいのが少し欠点だなと感じた。その日はそれ以上は特に何もせずのんびりと過ごし、明日の仕事のために英気を養った。
次の日の朝出社前に昨日買った時計を確認すると7時30分に針があっていてスマホの時計と同じ時間なのでしっかり動いているのを確認したあと家を出た。
その時計を買った日から24日経ったとき異変が起きた。寝て起きると不在着信と未読メールが大量に送られてきていたのである。何事かと思いメールに目を通すとすべて無断欠勤だが、体調が悪いのかなどの心配をしているメールであった。無断欠勤とはどういうことだろうと思い日付を確認する。すると信じられないことが起きていた。昨日寝たのは6月3日だったはずなのに今は6月5日になっている。何が起こっているのか分からなかったが、とりあえず出社の準備をし会社に向かった。出勤すると上司や同僚、はたまた他の部署の人までが自分のことを気にかけてくれた。職場では仕事のできるいい奴との評価なので怒られることもなく、ただひたすら心配してくれていた。起きたら1日経ってましたなど言えるはずもなく、体調が絶不調で起き上がることもましてや会社に連絡すらできなかったと嘘をついた。
その日の昼休み1番中のいい同僚に本当のことを話してみると、「時喰らい」ではないかと真剣な顔で言われた。「時喰らい」とは何かと聞いてみると、時計の形をしている怪異で普通の時計と違い1から12ではなく文字の一番小さい文字が0なのだと言った。さらに、時計によって様々ではあるが、一日をオーバーした時間を蓄積し24時間以上貯まると異変が生じるのだと説明した。今回の場合毎日1時間オーバーしていてそれが24日経ったので1日丸々なくなったということらしい。オカルト的なことをあまり信用していないので、デタラメではないかと言うと実際に起こっているんだから、真面目に聞けと怒られた。
さらに、今回は運が良かったらしい。「時喰らい」は24時間間隔で対象の時間を無くすので、もしかすると72時間以上いっぺんに無くなっていたかもしれないという。72時間日数にして3日。人間が何も食べずにいたら死ぬ日数である。もし今回それが起こっていたら俺は死んでいたということだ。初見殺し性能が高すぎるのではないかと思ってしまった。
そして、同僚は対処方法として神社でその時計を供養してもらうことを勧めてきた。店に返すのではだめなのかと聞くとその店は存在しないものだと言ってくる。どういうことなのかと問えば、その店も「怪異渡し」という怪異なのだそうだ。その名の通り怪異に惹かれたものに怪異を渡す怪異らしい。
同僚は真面目に話してくれているのだが、実際に起きていることだとしても怪異のせいだと言われると胡散臭く感じてしまう。そう感じていたのが、顔に出てしまったのだろう。同僚が信じてないでしょと言ってきたので、ごめんと素直に謝ると信じられないよねと言ってくれる。信じられないなら色々試して見てみるといいんじゃないかと提案してきた。怪異は自分のルールを破ることはないのだという。なんでそんなことを知っているのかと聞けば、怪異が好きで色々調べているのだと話してくれる。その後、いくつか提案されたので実際にやってみることにした。
まず、俺が時計をもらったあの店に行ってみる。百均の隣にあったはずなのに今は空き地になっている。近隣のお店に最近までなにか建っていなかったか聞きてみたが、10年以上前からなにもないと答えられた。次に、時計をゴミ出しに出すことにした。同僚いわく元々怪異に惹かれているし、時計を受け取ったことでしっかり縁が繋がってしまったので、それでは意味がないとのことだったがとりあえず手軽にできることからやりたいので、ゴミに出してみた。するとその日は時計が返ってくることはなく、解決したと思い眠りについた、次の日起きたら時計が壁に掛かっていて、駄目だった。壊せばいいと思うだろうが壊しても時計を止めても次の日には直って動いているだ。
手軽にできることはやったのでいよいよ神社に行くことを決意した。同僚にいいところはないかと聞くと少し遠いが有名所を教えてもらった。神社に連絡をし行く予定を決めた。
それから数日が経ち神社に行く日になった。準備を終え車で神社に向かう。神社までは2時間ほどの距離であるのだが、その途中、渋滞や工事、さらには事故などの影響によって4時間近くかかってしまった。お祓いを受けに行くときに邪魔が入って全然神社に行けないという話を耳にしたことがあったのでだいぶ早く家を出ていた。なので、約束の時間には間に合った。神主さんに一通り事情を説明し時計を供養してもらうことになった。そして、お祓いもしてもらった。これで一件落着だと思い家に帰った。
家に帰り鍵を開ける家に入ると違和感を感じた。
なぜならば、カチカチと時計が針動く音が聞こえるのである。俺は掛け時計以外は時計を置いていない。嫌な予感がしてリビングに行くとあの時計が壁に掛かっていて針が普段よりも少し早く動いている。怖くなり家を出て近くのコンビニに逃げ込み同僚に連絡する。すぐに迎えに来てくれた。同僚の家に行き、供養してもらったはずの神社に電話をしてみる。おかしなことに、時計は神社にあると言われ、であればさっきのは何だったのかと問い詰めてしまった。神主さんにもわからないとのことだった。電話を切ったあとわかるはずはないのにあまりにも不安すぎて問い詰めてしまって申し訳ないことをしてしまったな思った。
このあとどうするか同僚と考えもう一度家に戻ってみることにした。同僚も来てくれるとのことだったので心強かった。家に戻ると鍵が開いている。締め忘れたのだろうドアを開き中に入るまだ時計は動き続けているのだろう針の動く音が聞こえている。同僚とともにリビングで時計があることと動いていることを確認し急いで家から出た。その後、同僚の家に行きその日は遅かったので泊まることになった。
その夜夢を見た。時計をもらった店のお婆さんが出てきた。あの時計は何なのかなぜお祓いをしても家にあるのかなどを聞いても何も答えずただ笑っているだけだった。そうしているうちにこれが夢であることに気づくのと同時に俺の名前を呼ぶ声がどこからか聞こえてくる。目が覚める。そんな気がした。まだこのお婆さんから話を聞けていないのにと悔しく思う。夢から覚める直前お婆さんは真顔に一言だけ何かを言った。
目が覚める。同僚がそろそろ出社の準備をしないとだと言ってくる。夢の最後に言われたことを思い出そうとする。何かを外せそう言われたはずだ。だが、その何かを思い出すことができない。モヤモヤしたまま会社に行き、仕事をこなした。仕事も終わり会社を出て少ししたところで信号を待ちながら家に帰るかどこかホテルなどに逃げ込もうか考えていると同僚が後ろから声をかけてきた。これから神社に行かないかとのことだった。なぜそんなことを言ってきたのか聞いてみると、同僚も今日夢を見たらしくそこでお婆さんに針だとずっと言われ続けたらしい。意味が分からなかったが、最近の出来事で針が関係することで思い浮かんがのが俺の時計のことだったと言った。俺も夢でお婆さんに何かを外せと言われたことを伝えると時計の針を外すのではないかということになり2人で神社に向かう。神主さんに事情を説明し針を取り外させてもらった。その後、また2人でお祓いを受け家に帰った。
また同僚についてきてもらい家に帰る。鍵を開け家に入ると昨日とは違い静かであった。ひとまず安心である。まだどうなるかわからないので無理を言って同僚に泊まってもらうことにした。翌朝起きると時計はなくやっと解決したように思えた。
それから俺は特に異変もなく今も無事に過ごせている。
だが1つだけ不思議なことがある。あのお婆さんは本当に「怪異渡し」だったのだろうか?
怪異レポート
時喰らい:時計の形をした怪異。対象の時間を奪う。即死の危険性があるので上から2番目の危険度4。対処法は時計の針を外すこと。
怪異渡し:怪異に引かれたものにその怪異を渡す怪異。直接的な攻撃性能はないが出会ってしまうと高確率で怪異に取り憑かれる。直接の攻撃性能はないが、渡される怪異によっては死に至る。さらに基本的に対処できないので危険度は1番上の5。個人的に1番出会いたくないタイプの怪異である。対処法は店に入らない、何も貰わない。
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