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最後のクエスト  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第2章 ー峰雲に臨みてー
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【2-19】殺人鬼と復讐者と(2)


「君の父、ジョン・ローバーは、国によって殺されたといっても過言ではない」


 言葉の意味が一瞬わからなかった。

 話された言葉の意味はわかったが、その意味するところがわからなかった。


 国によって殺されたというのは、どういう意味なのか。

 わざわざ遠回りな表現を用いるというのは、どういう意図なのか。


 わからなかった。


「オレが依頼を受けたのは、鴉という組織からだ」


 鴉。

 カラス。


 聞いたことがなかった。

 大人なら知っているのだろうか。

 どこの組織なのか、見当もつかない。


「まあ、知らなくて当然だ。この国の暗部組織だからな」


 キールが、どこか言葉を選びながら話し始めた。


 鴉という組織は、このフルネル国の暗部組織だという。

 何をしているかは、詳しくは話せないが、諜報であるとか、暗殺であるとかを行っているそうだ。国に対して有害になりそうなことを、表立って処理することができない場合に出てくる組織でもあると言う。


 国の中枢にも関係している組織で、まさしくこの国の歴史を作ってきた一員らしい。歴史の裏には必ず鴉がいた、と。


 鴉という組織は、基本的には組織に忠誠を誓った人物を用いてその仕事を全うするのだが、より高度な技術を持つ人物や組織に依頼を割り振ることがあるという。殺人であるとか、扇動であるとか、より適した組織があるということだ。


 そして、その中でも、出先機関として行動をする組織は『羽』と呼ばれているそうだ。実際に暗殺をする組織。実際に情報操作をする組織。実際に暗躍する組織。キールもその羽の一員なのだと彼は言った。


「鴉に依頼されて、オレたち羽は国益にならない人物を殺す。オレが吊るしあげられた一件以降、オレはこうして働かされている。別に守るべき人がいて人質が取られているとかはないが、生きていくためには必要な仕事をしているだけだ」


「いくら、君の父上にお世話になっていたとは言え、仕事は仕事。父上にも納得した上で死んでもらったよ」


「だから、ローバー。君が復讐すべき対象は、鴉。国なのかもしれないな」


「なぜ、ジョン・ローバーを殺す必要があったのか」


「そんなものはオレは知らない」


「いいじゃないか。君の母上や、君自身の命が奪われたわけではないのだから」


「亡くしたのは惜しいかもしれないけど、そこにこだわっていると、前へ進めない」


「死なんて、どこにでもあるだろう」


―—――—―


――—―


―――


――


 それから、どうやって自宅に帰ったかは覚えていない。

 途中から、キールの話す言葉は、網で水をすくうかのように、スルスルと思考の隙間を抜けていくようだった。

 一つも引っかかるようなことがなく、理解する前に消えて行った。


 国によって殺された。


 実際に殺した人物が言った証言なのだ。

 間違いないのだろう。


 そして、俺一人が騒いだところで、なにも変わることはないのだとわかってしまった。大きな組織によって依頼を受けた人物が、ただその仕事を全うしたというだけのこと。俺が何か口を挟んだところで、その言葉はかき消され、なかったことにされてしまうのだろう。


 すこし前まで燃えていたはずの復讐心は、次第に小さくなり諦念感になっていった。俺がなにをしても、どうしようもないという諦めに、無力感に、絶望に。


 父が殺された時以上の喪失感だった。


 ただ殺されたということ。

 国益の邪魔になるからと国に殺されたということ。


 父を二度亡くしたような、そんな感情だ。


 俺の復讐は、もうこれ以上できないのだろうか。

 国に対して何か報復ができないものだろうか。

 しかしあまりにも大きな相手すぎて、立ち向かう手立てが一つも浮かばない。


 あまりもの自分の小ささに、打ちひしがれた。







―――



 それでも、生活は続いていった。

 父よりも剣が強くなることを日々の糧にしていた時。

 父を殺されたことへの復讐を日々の糧にしていた時。


 それらがなくなったとしても、命ある限り、生活は続いていくのだ。


 母は、だいぶ精神的に落ち着いてきて、自室にこもりきりということはなくなった。まだ孤児院に顔を出すほど回復はしていないが、家事をしたり買い出しに行ったりはできるようになった。


 たまに、俺に対して笑顔を見せてくれるぐらいには回復した。


 今、我が家には時々リンが顔を出してくれるようになった。ポーターさんが、こちらの道場に稽古しに行けと出向かわされた、と彼女は言っているが、そうではないとわかっている。道場に用事があるだけならば、それだけで帰ればいいものを、わざわざ家にまで来てくれるのだ。俺が道場に行かなくても、我が家にやってくる。


 家の前で共に素振りをしたり、近場の広場で打ち合いをしたり、母と3人で一緒に食卓を囲んだりして、リンとは生活を共にする日が増えていた。


 そのおかげか、母が精神的に落ち着いてきたというのがあるだろう。リンは、母と一緒に女同士の話をしてりもしているそうだ。内緒だと言われて何を話しているかは知らないけど。


「クラウド、どう?」


 リンには、父が殺された要因を話していない。

 ただ、賊が入って、殺されてしまった、ということしか伝えていない。

 俺たちに気を遣ってか、そんなに深く話を聞こうとはしていなくて、ただ寄り添ってくれている。それがどれだけ救いになっていることか。


 それだけに、突然聞かれたこのことばに驚いた。

 というよりは、思考が停止してしまった。

 どう、とはどういう意味で聞いてきたのか。


「はは、そんな身構えなくてもいいのに。ただ……、少しはましになった? あれからもう半年は経つからさ」

「そうか、もう」


 全く意識していなかった。

 年月の流れを意識するほどの余裕がなかった。

 不安定な母を見ながら、生きていくというのは、俺にとってはそれほど難しいことだった。


「気持ちは落ち着いてきた、と思う。変なこと考えたりすることは減ってきたし、ちょっとはましになってきていると思う」

「ほんとうに? 今日の打ちあいもだけど、雑念ばかりだったように感じられたけど」


 何度か、冒険者ギルドのアルベルトや、師範代など、話す人には話しているが、心の中にあるモヤモヤだとかは、拭いきれていない。

 ずっと、なぜ父が殺されないといけなかったのかということばかり考えてしまい、ダメだ。

 国に殺されたというだけで、どうしようもない無力感もあるし、復讐するということすら諦めてしまった。諦めたつもりだった。


 考えないようにしているつもりだった。

 しかし、リンが言うには、何かを考えて、諦めていないのかもしれない。


「なんでだろう。諦めているつもりなのに」

「わかんないよ? 私はクラウドがどこまでなにを考えているかはわからないから。

 けど、どこか前のクラウドとは違うように見える――感じる。

 もっと剣にまっすぐな剣士だったもの、クラウドは。

 けど、今のクラウドはどこか違う。雑念ばかり。剣と向き合っているとは思えない。

 それが、クラウドの為になっていることならいいんだけどね。

 でも、あなたはただ悩んでいるだけのようにも見える。

 だから、不躾かもしれないけど、聞いてみるね」


「復讐なんて、諦めた……?」

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