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最後のクエスト  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第2章 ー峰雲に臨みてー
43/46

【2-17】クラス対抗戦と(3)

―――



 朝。

 一片の雲のない晴天。

 燦燦と照り付ける太陽のもとに、俺たちは立っている。


 8人。

 夏季制服の袖口にルブルムの色である赤の布を巻きつけ、深呼吸をしたり、準備体操をしたりして、それぞれの準備をしている。


 俺も例外ではなく、体内の魔力循環を活発にさせつつ、関節の可動域を確かめたりしている。

 昨日は、寝る前にスキルとの稽古を行ったが、それでもしっかりと休息をとることはできて、身体の調子がすこぶるいいことがわかる。


 対抗戦に出場する8人のほかにも数名この広場にはおり、その各々叱咤激励されている様子だ。

 旅を一緒にした残りの3人に、いつも一緒にいるみんなもそろっており、本当にお祭り騒ぎというか、総力戦という様相を見せている。


「クラウド、頑張ってね。前回のカエルレウム戦みたいにね!」

 大きな目で見つめられながら、そう応援してくれたのはリオン。大きな期待をしてくれているようで、むず痒い。


「あまりワタシから言うべきことはないだろうけど、持てるだけの力を出してくれ」

 と、飾り気のない言葉をかけてくれたのはニア。彼女の切れ長の赤い目にまっすぐ射抜かれ、気合が入ってくる。


「僕も、あまり言うことはないかな。まあ、クラウドらしく、まっすぐやっていれば結果も伴うよ」

 ベルも似たような言葉をかけてくれた。彼からの信頼も受け取って、全身の力がみなぎるのを感じる。



「「さあ、それでは、ルブルムクラス対アルブムクラスのクラス対抗戦を開始します!! まさにこの勝負が、全学年合同での順位を左右する大きな決戦でもあります!! 皆さん! 応援しましょうううっ!!!」」


 拡声魔術で広間に大きく響きわたった声と共に、大きな鐘の音も響き渡った。

 勝負の始まりだ。



―――――


 昨日の話し合いで決まったことはこうだ。

 自陣の防衛をするのは2年生コンビとエーデル・ローレル。暴走しがちだが、大きな火力を秘めている2年生コンビとともに、誰もが認める実力者のエーデルが組むことで、堅実に自陣を守れると考えての配置だ。


 そして、前線と自陣の間で連絡を取り合ってくれるのがヨセフ・ベールイ。学年次席ともあり、実力もさることながら、知識もすばらしいものがある彼にとって、正確に情報を伝達してくれる役割が最適だと考えての配置となった。


 相手方の動きをけん制する役割としての遊撃隊はデュモイ双子。やはり、双子だけあって二者間の連携は素晴らしいものだし、なによりも2人の能力は、互いに補完し合っているコンビであり、これを活かすほかないと考えてこの配置になった。


 最後に、俺とスキルは一番槍になる。真っ先に敵陣まで飛び込んでいき、相手の動きを錯乱する。そして、俺たちの最大の役割はエリンの行動を阻害すること。願わくば戦線退場させること。彼の規格外の攻撃能力は、必ずや潰しておかないといけない。


 彼の魔術を斬るという技術は、それ単体だけでフラグを守るというこの形式の対戦において、最大の脅威になりえるのだ。いくら強固な守りを自陣にひいていたとしても、それが魔術であるのなら、容易に破られてしまう。いくら強力な攻撃をしかけたとしても、それが魔術であるのなら、容易に止められてしまう。


 だから、俺たちでエリンを対処しないといけない。

 彼の戦い方を知っていて、その対処を考えられる俺たちが。


「クラウド。肩に力はいってないか?」

「……ああ、正直はいってる」

「緊張せず……、な」

「ああ、もちろん」


 隣で立つスキルは、自然体だ。

 この大舞台で、緊張を全く感じさせない様相だ。


 以前からそうだ。

 スキルは、緊張している様を見せたことがほとんどない。

 それは生まれが原因なのか。それとも経験が原因なのか。

 生まれた国も、生まれた年も同じだというのに、どうしてこんなに違うのだろうかと、本当に疑問に思う。というよりも、その胆力に対して、別の人種の人物を見るかのようにスキルのことを見てしまう。人間としての水準が違うというか、なんというのだろうか。


  —―水のようだ。

 彼の与えられた力の通り、水のような精神性が、彼の中にはあるのだろう。

 『纏』の力をもらう前から、その片鱗は見せていたが、それが顕著になった気がする。


 どこか大人びたところは、旅を始める前からあったけど、旅をしていく中でさらに大人びていき、今や年齢に不釣り合いな精神性の高さを感じられる。


 本人にわざわざ言うことはないけれど。


 そんなことを考えていると、試合開始の合図がけたたましく鳴った。


「……クラウド、行こう」

「……おう」


 魔力を足に込め、走り始める。


――――――


 クラス対抗戦の行われている、デール王国戦技校の大広場は、この城内の3割ほどの広さだ。城の西側で、校舎と城壁の間に囲まれる格好ではあるが、城のすぐ西にある三日月湖が隙間から見える開けた場所になっている。

 城壁付近には多少の木々があるが、基本的にはさえぎるものがない、公園のようになっている。


 しかし、クラス対抗戦中だけは違い、地形を操る魔術によって、森であったり、池であったりが生成されている。

 今回の全学年合同クラス対抗戦では、互いに陣地の中央が小高い丘のようになっていて、少し開けている。中央を取り囲むようには森と池があり、最短距離を通る代わりに見られやすい道である丘を行くか、見られる危険性が低いが迂回していく必要のある森と池を行くかで、戦術が変わってくる。


 俺たちが選んだのは、丘の道。つまり、人目に見られるを厭わず、最短距離で勝負を仕掛けに行くことを決めた。俺たちの役割的には、見られる方がいいということもあるので、一挙両得というやつだ。


 しばらく走っていくと、スキルが突然足を止めた。


「クラウド、なんか、この辺り変な感じがする。気を付けた方がいいかも」

「そうか?」

 俺には何も感じられない。というより、会場全体に魔力が満ちていて、どれがどの魔力なのか、皆目見当もつかないというのが正しい。

「多分、なにか張られていると思う。ちょっと、解除かけてみるから、周りを警戒しておいてくれ」

「わかった」


 ここまで、身軽に動くために収納していた大剣――峰雲を展開し、辺りに警戒を払う。開けた道ではあるが、一方、この道を挟む森側の視界は全くなく、しかも気配もうまいこと隠されているので、誰かが突然飛び出てきてもおかしくない状況である。


 スキルが詠唱を済ませて魔術を発動すると、森の方から気配が突然出てきた。隠匿魔術か隠密魔術かで隠れていた人物が出てきた。


「……僕のこの魔術を破るとは、なかなかの使い手じゃないか」

「……先輩、だから言ったじゃないですか。スキルは警戒しておかないといけないって。さっさと先に進んだ方がよかったんですよ」

「……やっぱ、正々堂々戦えっていうことだ!」


 2人は良く知っている人物で、1人は名前は知っている人物だ。

 アルブムクラス1年の、魔術を斬る剣士エリン・タナーとまじない使いアリエル・ノーム。

 もう1人は3年ながら、魔術師連盟赤クラスの男レヴィ・アイスホルンだ。同じアイスホルン姓の1年がアルブムクラスにはいたと思うが、その兄弟なのだろう、切り揃えた暗い茶髪を携え、ローブを身にまとっている。右手には短剣を持ち、そこに魔力を込めているのが遠目でも確認できた。


「クラウド、エリンを頼んでいいか。おれは、アリエルと、アイスホルンの人を相手取る」

「二人同時にいけるのか?」

「いけるいけないとかじゃなく、そうしないとダメっぽい。あの2人で組むことは前提で、そこにエリンが付いてきている感じだと思う。ほら」


 スキルが顎を向けた先では、すでに2人で固まって魔力を練っている最中で、そこから1人、一歩づつ距離を縮めているのがエリンだ。


「……わかった」

「頼んだ」


 一歩進み、エリンと距離を縮める。


「エリン、やろう」

「クラウド、ガチでやってみたかったんだよ、きみとは」


 剣を鞘から抜き放ち、八相に構えたエリン。

 既に展開していた大剣を、正眼に構え迎え撃つ姿勢になる。


 視線を交わし合って、今か今かと互いの呼吸を読み合う。

 いくら痛めつけても死ぬことがないように保護されている中ではあるが、訓練や稽古ではない、エリンと何かがかかっている上での戦いをするのは初めてだ。

 彼も、スキルとどこか似たようなところがあって、胆力というか、物怖じをしないような強さがある。豪胆さとも言おうか。剣1つで生きてきた冒険者の経験が活きているのか、剣を構えた時の彼は、剣そのものとなっているかのようだ。(かいな)によって支えられている剣だけでなく、その身体、存在そのものが剣のようになっている。


 研ぎ澄まされた剣。

 まっすぐな剣。

 邪を打ち破る剣。


 スキル・フルネルが、水のようだとすると、エリン・タナーは剣のような人物だ。


 なら、俺はどんな人間なのだろうか。

 過去の俺は、剣を愚直に振り続けた、まっすぐな人間だったはずだ。剣を振ることで、目標を達成し、大きな、立派な人間に近づけると思っていた。それこそ、背中を追っていた父のようになれると、そう本気で思っていた。


 しかし、あれから、俺はどうなった。

 剣を振ることに躊躇が生まれた。

 目標のために振ることができなくなった。

 剣に生きる人生とは、距離を置いてしまった。

 あれだけ技術を磨き合ったリンと疎遠になってしまった。


 果たして、なりたかった自分に、本当に成れているのだろうか。

 現状に慣れて、流されるように生きていないだろうか。

 つらい過去に蓋をして、さも雛鳥のように、救いがあるのを口を開けて待っているだけじゃなかろうか。


 それでいいのか。

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