【1-3】入学式と(2)
「……なんかすごいメンツだったな」
静かな部屋でひとりごちる。
新入生歓迎会も終え、各々が寮の部屋に向かい、夜が深まっていく。
この学園では、城内に4人ひと部屋の寮が完備されている。この学園に入学した生徒は、よほど強い生徒からの要望がない限りは、基本的にはこの寮に入寮し、学友たちと生活をともにする。もちろん王族だろうが貴族だろうが何某であろうが、入学した以上は、ほぼすべて入寮する。エドウィン王子も、もちろんこの寮のどこかの部屋にいる。
まだこの部屋にはおれ以外おらず、ただこの寮で同室になる生徒たちの荷物が運び込まれているだけだ。
先ほどまで賑やかなだけあって、この静寂さにどこか心地よさを感じている。
先ほど同卓になった人物は、いつもの5人のほかに、デール王国の王子、帝国の貴族、ゴルアリアの公民と、多種多様な人物が集まった。やはりこの学園のうたう完全能力主義が現れていると思われる。
強ければいい。能力があればいい。成果があればいい。
この学園は、学園が認めるなにかしらの力や功績があって入学が許可されている。
貴族だからといって無条件で入学できるわけではない。
戦闘技術がある。学問試験で一定以上の点数を出すことができる。魔術の素養がある。
この戦技校には、そのどれもが一定以上ないと入学が難しく、それを何百年も続けているからこそ、現在の権威につながっているのだ。
「お、先客いたんだな! よろしく!」
突然扉が開き、一人、部屋に入ってきた。
大きな声ですこし驚くが、これから4年間同室になる学友だ。慣れていかねば。
「エリンだ! ご立派な家名はない! 貴族様じゃないからな! 苗字はある! タナーだ!」
情報をひとつづつ区切って言う、あまり出会ったことのないしゃべり方であったが、好感の持てる好少年であることは分かった。
「エリン。おれはスキル・オウル・フルネルだ。よろしく」
「おお! 貴族様だったか! それは失礼した!」
握手を求めてきたエリンに快く応える。右手は剣ダコで固く、鍛錬の成果を手が雄弁に語っている。
「しかし、フルネル、とは……剣はやっているのか!?」
「こっちの剣ではないけど、刀を使っている」
「刀か……よくもまあ、あんな特殊な武器を使うんだな。ああ、いや! フルネル国といえば刀か! 今度手合わせを願いたいな!」
「もちろんだ、エリン」
「ところで、スキルはもう夕飯はすませたのか? もしまだならお供したいのだが」
「ああ、いや、残念だが、もう済ましてる」
「そうか! じゃあ仕方ないな! また誘うとしよう! これからいくらでも誘えるからな!」
ほんとうに声の大きな男だ。悪気はないし、いい男であると思うが、声だけは慣れる日がくるのか想像できないほどだ。
じゃあ! と大きな声で部屋から出ていった。
しかし、好ましい同室の人間がいるだけでだいぶ気持ちが軽く感じる。
今後の生活が少し、楽しそうに感じた。
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「じゃあ、ニアも同室なんだね! よかったよ~」
私は、家族の次に私のことを知っているだろう友達が、寮の同室になったことを感動していた。
足掛け4年。私の人生の3分の1近く一緒にいる彼女が同室というだけで、とても心強い。
「そうね。しかも、カレンさんも一緒じゃない。知り合いだらけだわ」
同性の私が聞いても色っぽく感じる、すこし低い声を響かせながら、ニアは彼女のことを見た。
彼女はカレン・ロッド。
先ほどの歓迎会で同卓になった子で、きれいな赤毛を腰まで伸ばしている女の子だ。しかも、同郷! 住んでいたところを聞いてみてもそこまで遠くなかったので、実はどこかで会っていたかもしれない。
「ほんとだね~! 仲良くなれそうな気がしてたけど、それが確信にかわったよ!」
カレンは、その華奢な身体を揺らしながら、楽しそうに笑顔を見せる。
「いっぱい話そうね!」
「そうだね!」
私にとっても、ニアの次に私のこと知っている子になってくれそうで、とても楽しみだ。
私たちは、歓迎会のあと、エドウィンさん以外の7人で夕飯をともにした。エドウィンさんは王城の方で用事があるみたい。
7人はこの古城を抜け出して、ベルから、城下町のおいしいところを教えてもらって、ともに食べた。
この国出身なのがベルだけだったからベルに頼り切りだった。彼は意外にも、貴族が行かなそうな大衆食堂に案内した。聞くと、騎士団なんていうのは、集団で戦う力があるだけだから、そんな偉いものでもないんだよ、と諭された。ほんとうちのパーティは貴族でも貴族らしくない子が集まってたんだなあって思ったりしたり。
「リオン。とりあえず、部屋にはいらない?」
「あ、たしかに」
私たちはまだ寮の部屋に入らずに、扉の前で喋っていた。周りの部屋の子たちからの視線が感じられ、恥ずかしさを感じながら部屋にはいっていく。
「明日は、さっそく授業が始まるよね。どんな感じなのかな」
「そうね。学校なんていうのは通ったことないから、いまいちわからないのよね」
私も、ニアとは少し状況が違うが、こういう学校に通ったことはないので、わからない。読み書きと算術を教える普通学校の経験があっても、こういう中級以上の教育機関に通ったことのある人は周りにはいなかったので、想像もできない。
「明日はまずは能力測定からなんだよねー。正直、ゴルアリアでは魔力測定はあったから慣れてるけど、ほかの項目が怖いよね」
「そうだね」
そう、私とカレンが過ごしていたゴルアリア共和国は、魔術でその名をとどろかせる国で、10歳を迎えると普通学校で魔力測定が行われる。属性や魔力量はもちろん、その質などまで測定される。
ゴルアリアでは、それが通過儀礼のようなものであり、最初の魔力測定から5年おきに行われる測定で、国内での適正が測られる。今年15歳を迎えた私は、旅をしていたこともあって帰国しておらず、2回目の魔力測定はしていない。なので、実は久しぶりの測定で少しドキドキしている。
「カレンは前回はどんな感じだったの?」
「んーー、そんなに特別じゃないよ。お母さんにも、あんたは堅実に魔術の技術を磨きなさい、って言われたぐらい。リオンとニアは?」
「私は、ちょっと魔力量が多いけど、あとは並って言われた」
「ワタシはやったことない。獣人族の間では魔力測定のいろははないに等しいからね」
「へ~、そうなんだ! やっぱりいろいろしきたりとか違うもんね! 勉強になるよ!」
「ただ、得意な魔術の系統は、住んでいるところの得意な人だとかに教えてもらえるね。まあ、だからざっくりとは知っているっていう感じ」
ニア・ビーストは、その名前の通り、獣人族の出身で、このデール王国とも、私たちの出身のゴルアリア共和国とも全く違う国からきている。それなりの家系の出身らしく、獣人族の国に行くと、たいそう祭り上げられるそうだが、あまり快く思っていないことは言っていた。彼女にもいろいろあるんだろう。
旅の間、私たちは唯一の同性だったから、本当にいろんなことを喋った。今までの境遇。国での過ごし方。生活。経験してきたことや、思っていること。男の子たちには言えないようなことも。同性だからこそ助け合えることもあった。
だから、実はそういうのはもう知ってるんだ。
と、今日初めて会ったばかりのカレンに対して、ちょっとした優越感を抱いちゃった。
なんか、やっぱり自分って子どもだなあ、なんて思ってちょっと胸がチクッとしてしまった。