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最後のクエスト  作者: 水凪瀬タツヤ/AQUA
第1章 -集いし者たち-
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【1-1】デール王立学園戦技校と

 春。


 デール王国では淡い紅色の花が咲き乱れ、一年の始まりを、春の訪れを知らせてくれる。新芽を(ついば)む小鳥や、春の実りをかすめ取る栗鼠や、土の下で蠢く虫々が、淡い紅だけでない色を与えていく。


 デール王国城下町を西に行くと、大きな三日月湖に沿った崖に大きな古城が建っている。尖塔は雲を突かんばかりの高さがあり、石造りのその建築は荘厳さと堅牢さを誇示している。様々な攻撃の跡や崩壊の補強の跡が至る所に見受けられ、200年以上この土地を守っている古城と、この国の歴史の長さを物語っている。


 その古城の南門に200を超える少年少女が、真新しい黒の制服をまとい、淡い色の中でひときわ目立ちつつ、思い思いの顔をしている。


 ある者は、これから始まる4年に期待をしている。

 ある者は、何が待ち受けているかわからない不安を抱いている。

 ある者は、周りを見て今後の交友関係を憂いている。

 もともとの知り合いと集まっている者もいれば、一人立ち尽くす者もいる。

 三者三葉。十人十色。

 まさにそうした様相だ。



 5人。連れだって歩いているのは3人の少年と2人の少女だ。彼らもこの古城を利用した学園に入学する新入生である。話しながら、周りの新入生たちと同じように歩いていって、南門をくぐる。


「不思議な気分だね」

 鈴を転がしたような声が、そう言った。不思議がっているような声音ではなく、どこかこの状況を楽しんでいるような声音だ。


 その発言の意図が分からなかった4人は、その声の主に視線を向ける。


「どうゆうこと?」

 同世代の中では低めの声で聞くのは、クラウド・ローバー。

 濃い赤髪を風に煽られながら聞く。淡い紅の花が肩に留まり、それを軽く払うようにしながら、5人の中で最も身長の高い彼は、少女の顔を覗き込む。


「まさかこの学園に通えるなんて思いもしてなかったからさ。しかもみんなそろって!」

 楽しげに声を転がしながら彼女は答える。灰色の髪を編み込んでハーフアップに結った少女は、リオン・クローネ。4人の顔を順番に見ながら、その可憐な笑顔を振りまく。


「そりゃまあ、まがいなりにも英雄様だからね、ワタシらは」

 低く色気のある声で応えるのはニア・ビースト。クセのある茶髪を腰ほどまで伸ばしている彼女は、この国には珍しい獣人族だ。しかし獣人族らしい特徴はあまりなく、耳が少々長いぐらいが汎人(ノーム)族との違いだろう。


「そうだね。まあ、あまり同世代の子たちには知られていないだろうけどね」

 首肯するのは男にしては長い黒髪を首元で縛るベル・ナイト。年齢の割にはガタイがよく、弛まぬ鍛錬の成果が身体に表れている。


「まあ、いいんじゃないか? 平和ってそういうものじゃない?」

 光に当たると青く見える黒髪を目が隠れるほど伸ばしているのはスキル・フルネル。彼らの一番後ろを歩き、周りを見回しながら言う。


 2年前。彼らはあの存在を倒した。世界に魔獣を産み落とし、操るといわれる存在を。

 以降、魔獣の被害は確実に減っており、人類の危機が減っているのは確かだ。まさしく平和に近づいているのが彼ら5人だけでなく、世界に住む人々のなかでも実感がある。


 しかし、魔獣は完全にいなくなったわけではない。残党、というとあれだが、いまだ影にひそみ生きながらえている魔獣もいる。それに、魔獣は、あの存在が無から生み出すわけではなく、魔力の影響なども影響して発生しているというのがこの世界での有力な説であり、事実、魔獣の被害は出ている。


 ゆえにいまだ人類はその矛を手放すことはできていない。



 古城を利用して設立されたここデール王立学園戦技校は、この世界において名前の知られた戦闘技術専門学校である。15歳を迎えた少年少女が入学することができる学園で、武器術、魔術、戦闘術、戦術、戦略を学ぶことができる。ここに集まる彼らは、これから4年間、ともに過ごしともに学ぶ学友になるのだ。


 彼ら含め新入生らは職員の誘導に従って門をくぐり、敷地内へと進んでいく。


 門の内側には石を積み上げた塀や堅牢な建物が道の見通しを悪くしており、見るからに有事の際に防衛戦を行えることがうかがえる。さらに進むと人10人分以上の高さのある大きな扉があり、そこをくぐると城内にたどりつく。城内は光魔術の施された魔道具がいたるところに設置されており明るく、歴史がありそうな調度品を目立たせている。


 城内の奥ほどまで進んでいくと、500人は入れるであろう大きな講堂にたどり着いた。おそろくこの城が王城として使われている時には食堂として使われていたであろうこの部屋には、8人がともに座れるような円卓が20数台設置されており、先に部屋についた新入生から円卓を埋めていっている。


 彼ら5人もそれにならって円卓を埋め、この状況を話しながら、式が始まるのを待つ。



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