第九十九話:仕返し
アルクエイドとアシュリーは先王グレゴリー&国王グランから婚約解消の許しを得て、ロザリオ侯爵邸へ帰宅した。ロザリオ侯爵邸ではアシュリーの両親であるゴルテア前侯爵夫妻のクリフ・ゴルテア(今年で61歳)、エリナ・ゴルテア(今年で58歳)、アシュリーの兄と義姉である現侯爵夫妻のレオン・ゴルテア(今年で37歳)、リネット・ゴルテア(今年で37歳)、そしてアルダンとアーシアの従兄であるレオルド・ゴルテア【年齢17歳、身長180㎝、色白の肌、金色の短髪、青緑色の目、彫りの深い端整な顔立ち、ゴルテア侯爵令息】、アシュリーの祖父母である前々侯爵夫妻のルノー・ゴルテア(今年で81歳)、メーベル・ゴルテア(今年で79歳)が、孫(曾孫、甥&姪)顔見たさもあって来訪していた
「「お帰りなさいませ、父上、母上。」」
「お帰りなさい、アルクエイド、アシュリー。」
「義叔父上、叔母上、お帰りなさいませ。」
アルダン、アーシア、ユリア、何故かレオルドが出迎えた。それから数分後に4人の後を追ってクリフたちがアルクエイドとアシュリーの下へ駆け付けた
「おお、ロザリオ侯爵殿。」
「これはこれは、皆様御揃いでどうされたのですか?」
「アルダンが殿下に謹慎を命じられたと聞きまして・・・・」
孫であるアルダンが謹慎を命じられたと聞いてクリフとエリナは心配で駆け付けたらしい
「あぁ、心配無用ですわ。」
「どういう事だ、アシュリー?」
レオンが尋ねるとアルクエイドとアシュリーが理由を語った。アルクエイドとアシュリーが王宮に向かった目的、そして目的【グレンとアーシアの婚約解消&アルダンの謹慎解除及び側近の解任】を達成した事を伝えると案の定、周囲はギョッとした表情を浮かべた
「お父様、それは本当ですか!」
「もしかして私のせいで・・・・」
「アルダン、お前のせいではない。」
「それにしても殿下に想い人ができたとは・・・・」
アーシアは婚約解消に驚き、アルダンは自分のせいでこうなったと自分自身を責めるとアルクエイドはアルダンのせいではないと諭した。甥のレオルドは王太子グレンに想い人ができた事を訝しんだ
「あ、アシュリー、婚約解消は本当か!」
「えぇ、神殿での約定通りに。」
「何を考えておられるのだ。」
「まさか、殿下に想い人が・・・・呆れて物が言えないわ。」
クリフ&エリナは孫娘のアーシアの婚約解消に驚くと共に王太子グレンに想い人ができた事が原因だと知り、呆れていた
「先王陛下の意向と神殿での約定があったといえ、陛下はよく了承したな。」
「えぇ、特に王妃様はアーシア嬢を殊の外、お気に召されたとの評判ですから。」
レオンとリネットは姪のアーシアの婚約解消に現国王・王妃夫妻が了承した事に驚いていた
「うむ、アーシアとの婚約解消だけではなくアルダンの側近解任ということは・・・・これは殿下のお立場も危ういな。」
「そうですわね。先王陛下の御尊顔に泥を塗る所業をなされたのですから、間違いなく殿下は無事では済まされませんわね。」
ルノーとメーベルは先王の命を無視した王太子グレンの所業に間違いなくお咎めがくる事を確信していた
「まぁ、どっちみち娘と息子は王太子グレンから解放された事は私にとっては好都合にございます。元々、この婚約には反対でしたので・・・・」
「ロザリオ侯爵殿だけだぞ、そういう事を申されるのは。」
アルクエイドの言い分に突っ込みを入れるクリフ、その様子を見ていたアシュリーたちは苦笑いを浮かべているとそこへジュードが現れた
「旦那様。」
「ジュードか。」
「ははっ、例の想い人の正体が分かりましてございます。」
想い人という言葉にアルクエイドたちは一瞬で真顔になった
「どこの誰だ?」
「は、はぁ~。」
「構わん、ここにいるのは全員身内だ。」
「ははっ、スカーレット男爵家の養女となったカリン・スカーレットにございます。」
「スカーレット男爵家の養女?」
「は、はい。元は平民の生まれにございましたが、母親がスカーレット男爵の妾だったらしくに奥方様や実母の死後に養女として迎えたようにございます。」
「ほお~。」
「旦那様。」
ジュードに続いてデービスが割り込む形で入ってきた。ふとデービスの手元にある書類を携えていた
「デービス、その書類は何だ?」
「お忘れにございますか?スカーレット男爵に貸した借金の借用書にございます。」
借用書と聞いたアルクエイドは「あぁ!」と声を挙げた。クリフたちは借用書の存在に驚き、アルクエイドに尋ねた
「ロザリオ侯爵殿、スカーレット男爵に貸した借金とは本当か!」
「えぇ、私とした事がすっかり忘れてしましました。」
「ちなみにその借用書はいつ頃に?」
「いつぐらいだったかな。」
「3ヶ月前にございます、旦那様。」
「そうか、3ヶ月も経ったのか。いやぁ、歳は取りたくないものだ。」
ジュードから指摘されるとアルクエイドは3ヶ月も放置していた事に若干頭を掻いた。すると甥のレオルドが近付き、ある事を告げた
「義叔父上。これはチャンスですよ、借用書を武器にスカーレット男爵家を追い詰めましょう!」
「何?」
「辞めんか、レオルド!」
「あべし!」
息子の突然の発言にレオンは頭に拳骨を浴びせた。拳骨を食らったレオルドは涙目になりながら「良かれと思って」と言い訳をし始めると、リネットが叱りつけた
「レオルド、いくら親戚の家でも横から口出すとは何事ですか!」
「あべし!」
リネットは持っていた扇子をレオルドの頭に「バコン」と音を叩いた。しかも同じところを叩かれたので痛みが倍増したのはいうまでもない
「レオルド様、大丈夫ですか?」
すかさずアーシアが駆け寄り頭を擦るとレオルドは「うん、大丈夫。アーシアは優しいよ」と呟いた。その様子を見たゴルテア一家は「やれやれ」と呆れていた
「まあまあ、レオルドも私を気遣ってくれたのですから。」
「すまぬのう、ロザリオ侯爵。」
「曾孫が馬鹿でご免なさい。」
「ひいじい様、ひいばあ様、そんな言い方はないでしょう。」
アルクエイドに謝罪するルノーとメーベルに涙目になりながら突っ込むレオルド、孫(息子)の行動にクリフたちは「自業自得だ」と一蹴した。そんなゴルテア一家にアルクエイドは御礼の言葉を述べた
「皆様、何かとお気にかけていただきありがとうございます。我等はこの通り、息災にございます。ご心配には及びません。」
アルクエイドが笑みを浮かべるとアルダン、アーシア、レオルド以外の面々の背筋が凍った。アルクエイドは笑みを浮かべているが目が笑っていなかったのである
「「「「「(終わったな、スカーレット男爵家。)」」」」」
「(我が息子ながら恐ろしくなったわね。)」
その日は御開きとなりゴルテア一家は帰っていき、アルクエイドはアルダンとアーシアを下がらせた後、すぐさまデービスにある事を命じた
「デービス、直ちにスカーレット男爵家に向かい、借金の催促をしてこい。」
「畏まりました。」
デービスがスカーレット男爵家に向かった後、部屋に残っているのはアルクエイドとアシュリーとユリアとジュードのみとなった
「旦那様、よろしいのですか?」
「何がだ?」
「想い人の実家が窮地に立たされる事を王太子殿下は黙っていないでしょう。」
「だろうな。場合によっては押しかけてくるだろうな。」
「・・・・まさか旦那様。王太子殿下を嵌める気ですか?」
「ふふふ、流石は私の妻だ。」
「大丈夫なのですか?後で問題になったりは・・・・」
アルクエイドの狙いに気付いたアシュリーは後で面倒な事が起こるのではないかと心配そうに尋ねるとジュードが代わりに答えた
「ご安心くださいませ。王太子殿下は旦那様の庇護を失い、畏れ多くも先王陛下の逆鱗に触れました。国王陛下であっても庇い立てできません。王太子がどう足掻いても廃嫡は免れません。」
「そうなのですか?」
「ああ。先王陛下の命を破ったのは王太子だ。それに王子は他にもいるからな。」
「グリード第2王子ね。」
「その通りです、母上。」
第2王子グリード・ガルグマクは現在、ネマール国に留学中であるが、王太子グレンが独断で先王の命を破り、婚約解消もなった以上、呼び戻す事となるとアルクエイドは読んでいた
「ネマール国におられるグリード殿下は必ずや戻る。その時はグレン王太子殿下は廃嫡となる。」
「それを聞いて安心致しました。」
アシュリーもそれを聞いて安心したのかホッとした表情を浮かべた。アルクエイドは妻が安堵の表情を浮かべるのを確認すると心の中で「とことん追い詰めてやる」と王太子グレンとスカーレット男爵家の排除に動いてから数日が経った頃、王太子グレンが護衛もつけずに血相を掻いてロザリオ侯爵家に怒鳴り込んできた
「ロザリオ侯爵に会わせろ!」
グレンが鬼気迫る表情でロザリオ侯爵邸に来訪した事を聞いたアルクエイドは静かにほくそ笑んだ
「来たか、来たか♪」
「旦那様、相手は武器を持っている可能性がありますから慎重に。」
「分かっているわ♪」
数日前にアルクエイドは万が一のためにアルダンとアーシアをゴルテア侯爵邸に避難させていた。本当はアシュリーもゴルテア侯爵邸に避難させる予定だったがアシュリーは頑として動かず、結局はロザリオ侯爵邸に残る事となったのである。念のために客間にはジュードとデービス、そして隠密たちが配置している。予めボディーチェックを行なってから対応するつもりである。それから数分後、グレンは大変な剣幕でズカズカと客間に現れた
「これはこれは殿下、どうされたのですか?そのような怖い顔をされて?」
「ロザリオ侯爵、今すぐにスカーレット男爵家に圧力をかけるのを辞めるんだ!」
開口一番にスカーレット男爵家に圧力をかけるのは辞めろと言い放つグレンにアルクエイドは「まんまと乗せられおって」と心の中で馬鹿にしつつ冷静に対応をした
「はて圧力とは如何に?」
「惚けるな。借金返済を迫ったそうではないか!」
「あぁ、3ヶ月も借金を滞納していたので、その催促をしたまででございます。借りた物はキチンと返す、子供でも分かる道理でございますよ。」
子供でも分かる道理だと言い放つアルクエイドにグレンは顔を真っ赤にして睨み付けていた。するとアシュリーは横からグレンを嗜めた
「畏れながら殿下、旦那様は3ヶ月も猶予を待ったにも関わらずスカーレット男爵家は借金を返済しませんでした。こちらとしても借金を踏み倒されてはいけないと思い、実行に移したまでにございます。」
「そ、そんな端金のためにスカーレット男爵家がどうなっても構わないというのか!」
「貴族の没落等、珍しくございません。過去にも様々な理由で没落した貴族の家はいくつも見てきましたから。」
アシュリーの言い分にグレンは、たかが端金のために貴族の家を没落させていいのかと反論したが、アシュリーは冷静に貴族の家の没落は珍しくないと反論し返した。そんなアシュリーをアルクエイドは「アシュリー、流石に無礼だぞ」と嗜めるとアシュリーは「申し訳ございません」と謝罪した。アルクエイドはグレンの方へ視線を戻し、ある事を尋ねた
「畏れながら殿下。何故、スカーレット男爵家を庇い立てするような真似をされるのですか?」
「き、貴様には関係ない事だ!」
スカーレット男爵家との関係を聞かれ、グレンは慌てた様子では関係ないと一蹴したが、アルクエイドは追撃を続けた
「殿下、たかが男爵家のために動かれるとは・・・・何か弱みでも握られておいでか?」
アルクエイドがそう尋ねるとグレンは誰が見ても分かるように動揺し始めた。グレンは必死に隠そうと「か、関係ない」と言い始めたがアルクエイド見逃さなかった
「いいえ、もしスカーレット男爵家が殿下の弱みを握ったとなれば一大事にございます。場合によっては陛下にも御報告せねばなりません。」
陛下に報告と聞いたグレンはビクッとなった。流石のグレンもこれ以上はマズイと思ったのか、「し、失礼する」とその場を立ち去った。アシュリーは「追わなくてよろしいのですか?」と尋ねるとアルクエイドは「構わん」と告げた
「これより王宮へ向かう。ジュード、馬車の準備をなさい。」
「畏まりました。」
「旦那様、私も参ります。」
「分かった。」
アルクエイドとアシュリーは正装に身を包んだ後に馬車に乗り、王宮へ向かうのであった