第九十六話:結婚式
今日は待ちに待ったアルクエイドとアシュリーの結婚式である。アルクエイドとアシュリーは互いに結婚前に交流を深め、マリッジブルーとは無縁な日々を送り今日に至ったのである。アルクエイド側はというと控え室にて母のユリアはグレーの結婚衣装を身につけたアルクエイドの晴れ舞台を恥ずかしくないように口を酸っぱく忠告するのであった
「アルクエイド、国王陛下御一行も御来訪されたのだから粗相のないようにね。」
「分かっておりますよ、母上。」
「ほら、裾が上がっているわ、ほらっ。」
「自分でやりますよ。」
「息子が醜態を晒したら私は恥ずかしくて死にそうだわ。」
「母上、そのように心配していると初孫を見る前に心臓麻痺に起こしてしまいますよ。」
アルクエイドの物言いにカチンときたのか、ユリアが凄んできたがアルクエイドはどこ吹く風の如く軽口を叩いた
「・・・・言ったわね、この馬鹿息子。」
「母上、目尻に小じわができますぞ(笑)」
「なにを・・・・」
「旦那様、モンテネグロ侯爵御夫妻がお越しになられました。」
「おお、通せ。」
「ははっ。」
「ふん!」
「いっ!」
息子から茶化された事にカチンときたユリアはヒールの履いた足を思い切りアルクエイドの足を踏みつけた。アルクエイドはユリアに踏みつけられた足の痛みを苦しみ、ユリアは扇子を広げて嘲笑を浮かべた。アルクエイドは痛がる足を我慢していると、そこへウルスラ&ナビエ侯爵夫妻が入室してきた
「「アルクエイド殿(ロザリオ侯爵閣下)、結婚おめでとうございます。」」
「あ、ありがとうございます。」
「お久しゅうございます、ロザリオ前侯爵夫人。」
「御無沙汰しております。」
「モンテネグロ侯爵夫妻もお変わりなく。」
挨拶を済ませるとウルスラはアルクエイドの様子がおかしい事に気付き、尋ねた
「ん、どうされたアルクエイド殿、顔色が悪いようですが?」
「あはは、実は足の小指をぶつけてしまいまして・・・・」
「大事ございませんか、ロザリオ侯爵閣下!」
「御心配なくモンテネグロ夫人、痛みは完全に和らぎましたので・・・・」
「ほんと、我が息子ながら落ち着きのない事(自業自得よ、馬鹿息子。)」
「ははは、面目次第もございません(あんたが踏んだんだだろうでしょうが!)」
「アルクエイド殿、結婚する前に怪我をされては元も子もないですぞ。」
「いやあ、面目ない。」
「先程、夫と共にゴルテア侯爵家にも御挨拶に伺いましたが花嫁衣装を着たアシュリー嬢は清らかでお美しいですわ。」
「えぇ、私もアシュリーの花嫁姿を拝見しましたが本当に綺麗でした。」
「私も義理の母として鼻高々ですわ。」
「アルクエイド殿は本当にお羨ましいな。」
「ははは。」
「旦那様、そろそろ準備のほどを。」
ウルスラ&ナビエ夫妻と談笑をしているとジュードが知らせに来た
「ではアルクエイド殿、ロザリオ前侯爵夫人、我等は先に式場へ。」
「御待ちしておりますわ。」
「えぇ、本日はありがとうございます。」
「ウルスラ殿、モンテネグロ夫人、式場にて御会い致しましょう。」
一方、アシュリーはというと両親のクリフとエリナ、この間、結婚したばかりの兄のレオンとの妻であり義姉リネット、アシュリーの祖父母であるルノーとノーベル前侯爵夫妻が控え室にいた。アシュリーは純白のウエディングドレスに身を包み、神妙な気持ちで望んでいた
「まさかアシュリーの花嫁姿を見る事になるとは・・・・」
「長生きはするものですわね、本当に綺麗。」
「ありがとうございます、御爺様、御婆様。」
ルノーとノーベルは孫2人が結婚するのをこの目で見ることができて良かったとしみじみと感じていた
「後は曾孫の顔を見れれば思い起こす事なくいつでも御迎えができるな。」
「ち、父上、娘の晴れの舞台にそれは・・・・」
ルノーの御迎え発言にクリフは遠回しに不謹慎だと注意するとルノーは「言葉のあやだ」と誤魔化した。するとアシュリーが「冗談でも言わないでほしい」と注意されるとルノーは「すまん」と謝罪した
「アシュリーの言う通りよ、曾孫が成人を迎えるまでは、まだまだ長生きして貰わないといけないんだから・・・・」
「そうじゃったな、ワシとした事がつい余計な事を言うてしもうた。」
「全くですよ。」
ノーベルに諭され、ルノーは照れ臭そうに頭を掻いた。そんな中、レオンはアシュリーにある事を尋ねてきた
「アシュリー、マリッジブルーになってないか?」
「どうしたのですか、急に?」
「いやあ、リネットがマリッジブルーになって色々あったからつい・・・・」
「大丈夫ですわ、お兄様。」
「そ、そうか。」
兄のレオンが心配するのは理由があった。実は結婚前にリネットがマリッジブルー状態になり、レオンが尋ねてきても会う事すら叶わぬほどだったという。罰が悪そうにリネットが謝罪をした
「申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりに心配をかけさせてしまって・・・・」
「お義姉様のせいではありませんわ。どうか御自分をお責めにならないでください。」
「アシュリーの言う通りよ、リネット。むしろ、アシュリーが逞しくなったわ。普通ならマリッジブルーは避けては通れないもの。」
「お、お母様。」
「母上の言う通りかもな。ロザリオ侯爵閣下は度胸が据わっているからな。」
「こら、レオン。仮にも貴族社会の先輩に対して何たる言いぐさだ!(拳骨)」
「あべし!」
クリフの拳骨をくらい、レオンは頭を擦っていた。その様子を見たアシュリーはプッと笑みをこぼし、エリナは「全くこの子は」とレオンを呆れた目で眺め、リネットはレオンを介抱していた。するとそこへ執事がやって来て準備をするよう知らせに来た。アシュリーは立ち上がり、家族の方へ視線を向けた
「お父様、お母様、長い間、御世話になりました。この御恩は一生忘れません。」
アシュリーが両親に御礼の言葉を深々と御辞儀をした。するとクリフはアシュリーの肩に手を置いた
「アシュリー、今まですまなかった。私は由緒あるゴルテア侯爵家を存続させるためにお前を利用した最低の父親だ。お前の気持ちを無視して推し進めてしまった。」
「お父様。」
「だが私とて人の親だ。娘が幸せになってほしい思いもあった。」
「・・・・私はお父様を恨んでおりました。私の意思を無視して婚約を進めた事を・・・・」
「アシュリー・・・・」
「ですが結果として良かったと思います。アルクエイド様に出会えた事、心から感謝致します。」
「アシュリー・・・・ありがとう。」
クリフとの会話を終え、今度はエリナの方へ視線を変えた。エリナは視線をそらさずに真っ直ぐアシュリーを見据えた
「お母様・・・・」
「アシュリー、貴方はもうゴルテア侯爵家の令嬢であって令嬢ではありません。貴族の妻としてゴルテア、ロザリオ両家の架け橋としての役割を果たしてきなさい。」
「はい・・・・今まで御世話になりました。」
感謝の言葉を述べ、深々と頭を下げるアシュリーにエリナはかつての自分を思い出していた。母(アシュリーの母方の祖母、故人)から実家とゴルテア侯爵家の架け橋になるよう自身に言われた事が今度が自分が言う事になるとはと感慨深く感じた。母も同じ胸中だったのか、死んでしまっては分からない。そんな胸中の中でエリナはアシュリーを優しく抱き締め、アシュリーもまた抱き返した。その時間は短くそれでいて長く感じた
「アシュリー・・・・幸せにね。」
「・・・・はい。」
抱擁が終えるとアシュリーは兄のレオンと義姉のリネットの方へ視線を向けた
「お兄様、お義姉様、どうか御幸せに。」
「アシュリーもな。」
「どうか御幸せに。」
「アシュリー、そろそろだ。」
「はい、お父様。」
「これより結婚式を開始します。」
主催者の一声により結婚式が始まった。参加者は国王グレゴリー&王妃レティーシアを筆頭に王太子グラン&王太子妃レミリア、レミリアの両親であるガルグマク公爵夫妻、新郎新婦の親族、ガルグマク王国の各大臣や錚々たる御歴々が参加していた。そんな中、1組のカップル【アルクエイド・ロザリオ&アシュリー・ゴルテア】は和やかな雰囲気の中であっても神妙な面持ちで望んでおり、神父を前にしてもそれを解くことがなかった
「新郎アルクエイド様、貴方は新婦アシュリー様を妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くす事を誓いますか?」
「誓います。」
「新婦アシュリー様、貴方は新郎アルクエイド様を夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くす事を誓いますか?」
「誓います。」
「では指輪の交換を。」
神父の合図でそれぞれ従者が指輪を持ってきた。指輪交換は新郎から新婦、新婦から新郎の順で、お互いの左手薬指につける事になっている。まずアルクエイドはアシュリーの左手薬指に指輪をはめ、次にアシュリーがアルクエイドの左手薬指に指輪をはめた。双方、指輪をはめたのを確認した神父は「では誓いのキスを」と合図を送った。アルクエイドとアシュリーは互いに向かい合う形で互いに目を合わせ、静かに近付き、2人は衆人環視の下で誓いのキスを交わした
「皆様、神前の下で御二方は夫婦の契りを結びました。畏れ多くも盛大な拍手にて御迎えください。」
主催者が合図を送ると参加者は盛大な拍手を送ったそこからはトントン拍子に進んだ。アシュリーが持っていたブーケを衆人環視の下へ投げると令嬢たちが我先にとブーケを受け取ろうとした。ブーケはあちらこちらに転がっていき最後に受け取ったのはマリアンヌ・ヌーヴェルであった。ブーケを受け取ったのがマリアンヌだと知るとアルクエイドとアシュリーは激励の言葉を送った
「良かったな、マリアンヌ。」
「マリアンヌ、幸せにね。」
「あ、ありがとうございます!」
和やかな雰囲気のまま結婚式は無事に終了した頃には外はすっかり夜になり20時頃になっていた。アシュリーはアルクエイドとユリアと共にロザリオ侯爵家に入る事となった。ジュード始め使用人たちは当主の奥方であるアシュリーを温かく迎えた
「「「「「お帰りなさいませ、旦那様、大奥様、奥様。」」」」」
「うむ、御苦労。」
「皆、出迎え大儀。」
「皆様、末永くよろしくお願いします。」
「「「「「ははっ(はい)!」」」」」
アルクエイド等は屋敷に入ると早速、入浴する事となった。最初はアルクエイドが入る事になったが先に先客がいた
「あ、旦那様。」
「アシュリー・・・・」
そこには妻となったアシュリーがおり、生まれたままの姿でアルクエイドを迎えていた。勿論の事だがアルクエイドも生まれたままの姿であった
「旦那様、御背中をお流しします。」
「あ、ああ。」
アルクエイドは戸惑いつつもアシュリーに従った。アルクエイドの背中を洗うアシュリーにアルクエイドは何故、ここにいるのか尋ねた
「アシュリー、何故ここにいるんだ?」
「御義母様の命にございます。早く孫の顔が見たいからと。」
「そ、そうか(ナイスだわ♪♪)」
アルクエイドはお節介おばさんと化した母にここぞとばかりに感謝した。正直言って今すぐにでも襲いたい気分であったが理性で何とか抑えつけていた
「(焦るな、焦るな、私。)」
「だ、旦那様。」
「な、何だ?」
「私はい、いつでも構いません(照)」
それを聞いたアルクエイドの理性の糸がぷつんと切れた
「アシュリー!!」
「ああっ♡」
「まだ上がらないのかしら。」
「申し訳ございません。」
「若いっていうのもあれね。」
ジュードの報告を受けて自室で待っているユリアはいつまでたっても上がらない2人に呆れていた
「まぁ、早めに孫の顔が見れそうだわ。」
「何故、そのように?」
「ふふ、発情期を迎えた男女は子供が出来やすいのよ♪」
ユリアの予測通り、アシュリーは身籠ったのである。アシュリー妊娠の報はガルグマク王国内に広まったのはいうまでもなかった。アシュリー妊娠を聞き付けたゴルテア侯爵一家は早速、駆け付けた
「私も祖父か、楽しみだ。」
「ふふふ、楽しみですわね♪」
「まさか伯父さんになるとはな。」
「まぁ、いいではありませんか。」
「「ははは。」」
「ロザリオ、ゴルテア両家の架け橋になったわね♪」
「御世継様の御誕生!ジュード、楽しみにしておりますぞ!」
その後、アシュリーは双子の男女を出産し、双子の男子(兄)をアルダン・ロザリオ、双子の女子(妹)をアーシア・ロザリオと名付けられた。この時、アルクエイドは29歳、アシュリーが19歳であった
「旦那様、子供たちも共に末長く頑張りましょう。」
「あぁ。」