第九十五話:18歳
アルクエイドとアシュリーは王都へ帰還してから数ヵ月後が経った頃、アシュリーは18歳の誕生日を迎えた
「アシュリー、誕生日おめでとう。」
「ありがとうございます、アルクエイド様。」
ガルグマク王国の女子は18歳から結婚でき、アシュリーもその対象になったのである
「すまなかったな、結婚式の件。」
「仕方ありませんわ。」
本当はアシュリーの誕生日に結婚式を挙げる予定だったが諸々の事情が重なり、延期になったのである。アルクエイドは18歳の誕生日を迎えたアシュリーを喫茶店【カサンドラ】に招待し、アルクエイドとアシュリーが対面した個室にいたのである
「覚えているか、アシュリー。ここで私とアシュリーが出会った個室の事を・・・・」
「えぇ、昨日の事のように思いですわ。」
アルクエイドは初めてアシュリーと対面してから1年が経ち、長かったような短かったような心地であった。アシュリーも最初は成金の女誑し貴族であったアルクエイドに嫁ぎたくないと頑なに拒絶した事が昔のように思えた
「アルクエイド様。」
「ん、何?」
「アルクエイド様は私と出会う前はずっと独身だったのですか?」
「あぁ~・・・・」
アルクエイドは間を置きつつも少し考え、口を開いた
「まぁ~・・・・独身生活を楽しんでいた事もあるが、やはりラーナの件もあるな。」
「ラーナの事?」
「あぁ、元々はスリザリン伯爵家からの申し出で結ばれた婚約だった。その時の私は貴族の仕来たりだから、仕方なしと従ってきた。それからだ、ラーナがシリウスと駆け落ちした事件が起きたのは・・・・あの時の父上は本当に怖かった。」
アルクエイド曰く、ラーナとシリウスが駆け落ちしたのを知ったアルクエイドの父であるトーマス・ロザリオ伯爵は激怒したという。普段は冷静沈着で豪胆なトーマスは駆け落ちしたラーナに驚き、そして怒り狂った姿に当時のアルクエイドは呆然としたという
「あの時の父上は本当にまさに狐に取り憑かれたのかというほどの凄まじいものだった。陛下が抑えてくだされなかったらどうなっていたか・・・・」
「へ、陛下も巻き込まれたのですか。」
「あぁ、流石の陛下も父の豹変ぶりに驚いたそうだ。」
「陛下の仲介の下でスリザリン伯爵家は侯爵家になる前のロザリオ伯爵家に多額の慰謝料を払う事で決着がついたが1度ついた悪評はスリザリン伯爵家を没落へと導いた。」
「は、はぁ~。」
「母から聞いた話なのですが付き合ってくれるか?」
「は、はい。」
アルクエイドはアシュリーに過去に両親がラーナとシリウス探索について話し始めた
【回想始まり】
「おのれぇぇ、スリザリンの小娘に面目を潰されてしまったわ。」
「貴方、落ち着きなさいな。」
ロザリオ伯爵邸にてロザリオ伯爵家当主のトーマス・ロザリオは未だに怒りが収まらず、妻のユリアが宥めていた。その様子を見ていた当時のアルクエイド・ロザリオ伯爵令息もユリア同様、父を宥めた
「父上、私は特に気にしてはおりません。元々、政略目的で結ばれただけの関係ですから、それほど思い入れはございません。だからお怒りをお沈めください。」
「アルクエイド・・・・お前は本当に聡明な子だ!私の自慢の息子だ!」
「お褒めの御言葉として受け取っておきます(私としてはこれ以上、大事にしたくないわよ!)」
「やれやれ。」
ユリアとアルクエイドに宥められたが、ラーナとシリウスの駆け落ちに怒りが残っていた。トーマスはアルクエイドを退出させた後、ユリアに胸の内を述べた
「スリザリンの生き残りを始末するぞ。」
「貴方!」
「我等、ロザリオ伯爵家の面目を潰し、実家であるスリザリン伯爵家を没落させた張本人2人を野放しにするわけにいかん。」
トーマスはどんな手を使ってもラーナとシリウスを亡き者にしたいという気持ちは変わらなかった。長年、夫を見てきたユリアはこれ以上、説得は無駄と感じ渋々、了承したのである
「アルクエイドには、この事を伝えるのですか?」
「いいや、知らせれば真っ先に反対する。アイツはこれ以上、大事にしたくないだろうからな。」
「・・・・承知しました。」
トーマスとユリアは隠密たちに命じ、ラーナとシリウスの捜索を命じた。数年の歳月が経ち、2人の行方を突き止めたがある事実が発覚した
「あの小娘がその土地の地主の愛人になったとは・・・・」
「本当に浅ましくなったわ。」
隠密からの報告によるとラーナはアポロ山脈付近に拠点を構える地主と愛人関係を結んだ。何故、そのような事態になってしまったかというと、2人は長きに渡る逃亡生活の後にアポロ町に落ち着いたが暮らしぶりは貧しかった。そんな時にその土地の地主がラーナに見初められた。ラーナはシリウスに内緒で地主と愛人関係になり、おまけに地主との間に2人が生まれたという。夫のシリウスはというとラーナと地主がデキて、子供たちが血が繋がっていない事に薄々気付いているが、どうやらラーナに頭が上がらず忍従の日々を送っているのだとか・・・・
「それでどうなさいますの?」
「・・・・辞めだ。」
「どうされたのですか、まさか急に怖気づいたのではないでしょうね?」
ユリアはここに来て2人を始末する事を辞めると口にする夫に挑発めいた質問を投げかけるとトーマスは冷めたようにこう告げた
「興醒めだ。あの2人に怒りを感じた己が馬鹿らしくなったわ。」
「それでアルクエイドにはこの事は・・・・」
「伏せておけ。」
「畏まりました。」
【回想終わり】
「そのような事が・・・・」
「あぁ、父は私には絶対に知らせるなとキツく口止めをしたそうだ。私が止めるのを察していたのだろう。」
アルクエイドは昔を思い出し、あの時、少しでも父を説得すれば良かったかと考えていた。結果としてラーナとシリウスに振り回されたのは言うまでもなかったが・・・・
「そういえばラーニャとラフィトは?」
「あぁ、あの2人は孤児院で他の孤児たちと仲良くやっているそうだ。」
アルクエイド曰く、アルクエイドか経営している孤児院にてラーニャとラフィトは同じ身の上の孤児たちと仲良くやっていると、シャーロットと隠密からの知らせが入ったとの事である
「それは良かったですわね。」
「まぁ、私もそれを聞いて安心したよ。」
「アルクエイド様。」
「何?」
「もしアルクエイド様があの子達を引き取らなかったらどうなっていたでしょうか?」
「親のいない子供の大半は死か生き地獄だ。」
「・・・・そうですか。」
コンコン!
「ん、ケーキが来たみたいだ。」
「ケーキ?」
「失礼致します。」
しんみりしたムードの中、グッドタイミングとばかりに従業員が入室した。従業員が運んできたのはアシュリーが気に入っていた苺とマスカットと板チョコが散りばめられ生クリームたっぷり乗っかったパンケーキであり、無数の蝋燭と誕生日おめでとうと書かれた白い板チョコも添えられていた
「あ、こ、このパンケーキは!」
「アシュリーが前に気に入っていたパンケーキだ。今日の日のために【カサンドラ】に予約を入れたんだ。」
「あ、ありがとうございます。」
アシュリーの下へパンケーキが置かれ、蝋燭の上に火が灯された
「では改めて誕生日おめでとう、アシュリー。」
「ありがとうございます、アルクエイド様。」
「さあ、火を消して。」
「はい・・・・ふっ~!」
アシュリーは蝋燭に灯された火を全て消すと、アルクエイドはパチパチと拍手をした。アシュリーにとっては家族以外、しかも自分の夫となる最愛の男性に祝福された事にこれ以上の幸せはないと心底から思ったのである。アルクエイドも同様、自分の妻となる最愛の女性と結ばれる事に心底、喜んだ。女の子大好きのOⅬ女性だった自分の夢が叶ったのである
「アルクエイド様、早速頂きましょう♪」
「ああ。」
こうしてアルクエイドとアシュリーの和やかな雰囲気のまま1日が過ぎた