第八十七話:謀反
アポロ町から出発してから数日後にアルクエイド一行はロザリオ侯爵領に入部しロザリオ城に到着した。知らせを聞いていたユリアはアルクエイド一行を出迎えたのである
「お帰りなさい、アルクエイド、アシュリー嬢。」
「ただいま戻りました。」
「お久しゅうございます。」
「あの子たちが例の?」
ユリアの視線に合わせ、振り返るともう一台の馬車からラーニャとラフィトが降りてきて、目をキラキラさせながらロザリオ城を見ていた
「えぇ、ラーナの遺児です。」
「あの子たちをどうするの?」
「私の経営する孤児院に預けます。」
「そう・・・・アルクエイド、貴方もつくづくお人がよろしいようね。」
「そこが閣下の良いところではありませんか、御母堂様。」
「良かったわね、アシュリー嬢に気に入られて。」
ユリアからの指摘にアルクエイドは照れ臭かったのか頭を掻いた。ユリアから「休憩した後に話があるから」と伝言を聞いた後にロザリオ城に入城しアルクエイドとアシュリーは休息を取った後に広間へ向かう道中でアシュリーはラーニャとラフィトの事を尋ねた
「アルクエイド様、あの子たちはどこへ向かわれたのですか?」
「あぁ、監視付き(侍女)だが客室に2人を案内した。客人故、くれぐれも粗略に扱うなとは命じている。」
「まだ年端もいかない子供だけを客室に入れるのは流石に酷ではありませんか。」
「気持ちは分かるがあの子たちは赤の他人であり平民だ。周りの目もあるし、これ以上の厚遇はできない。」
「・・・・左様でございますか。」
自分たちは貴族、ラーニャとラフィトは平民、立場が違う。スリザリン伯爵家が残っていればチャンスはあったかもしれないが既になくただの平民である2人にこれ以上、厚遇するつもりはない。そんなこんなで広間に到着するとユリアがソファーに座り、茶を飲んでいた
「来たわね。」
「それで話とは?」
「まずは座りなさい。」
「はい。」
「失礼します。」
アルクエイドとアシュリーはソファーに座ると侍女がティーカップを置き、ティーポットから紅茶が注がれた
「まずは一服していきなさい。」
ユリアに促され、アルクエイドとアシュリーは紅茶を一口飲み、ティーカップをテーブルに置いた。そしてユリアはある事を教えてくれた
「王都で謀反が起きたわ。」
「「はい(えっ)?」」
アルクエイドとアシュリーは呆気に取られたが我に返り問い詰めた
「母上、今謀反と仰いましたか!」
「えぇ、言ったわよ。」
「御母堂様、それはいつ頃にございますか!」
「貴方たちがアポロ町へ向かってから2日後の事よ。」
「そ、それで?」
「謀反はすぐに鎮圧されて未遂に終わったわ。」
それを聞いたアルクエイドとアシュリーはホッと溜め息をついた
「それで誰が謀反を起こしたのですか?」
「噂ではギリアス大公が起こしたそうよ。」
「た、大公殿下が?」
ユリア曰く、大公であるギリアス・ガルグマク【年齢45歳、身長182cm、白髪混じりの金髪、碧眼、彫りの深い神経質そうな顔立ち、グレゴリーの異母兄、ガルグマク大公家の当主】が冷や飯ぐらいの貴族たちを率いて王宮を攻める計画があったらしく、偶然それを聞いた大公家に仕える召使が国王に密告し事が露見したという。国王に不満を抱く貴族たちは捕縛されたが肝心の大公と側近等と共に逃亡し、行方知れずである
「全く人騒がせにもほどがあるわよね、あのバカ大公。」
「母上、口が悪うございますよ。」
「いいじゃない、謀反人に情けはいらないわ。」
「やれやれ。」
「それで、謀反に関わった方々の処分は?」
「えぇ、謀反に関わった貴族とその家族は処刑されたわ。」
「あ、あの、両親と兄の安否は?」
そこへアシュリーが会話を割り込むようにゴルテア侯爵家の安否を尋ねてきた
「安心なさい、ゴルテア侯爵家は無事だわ。」
「そうですか・・・・良かった(小声)。」
まぁ、当然だろう。ゴルテア侯爵家は長年、王国に忠勤を貫く名門譜代の貴族であり、アシュリーの父であり当主のクリフ・ゴルテア侯爵が謀反人に荷担するとは思えなかったのである
「失礼致します。」
そこへジュリアが広間に入室した。何やら困った表情をしており、アルクエイドは「何事か」と尋ねるとジュリア曰く、ラーニャとラフィトがロザリオ城の探検をしているとの事である
「子供故の好奇心か。」
「はい。」
「はぁ~。」
「ジュリア、監視役はつけてるのでしょうね?」
「御意にございます。」
「なら、いいわ。」
「よほど、この御城が気に入られたのでしょう。閣下はここは大目に見ましょう。」
「やれやれ。」
一方、ラーニャとラフィトはロザリオ城を監視付きであっちこっち探検していた
「お姉ちゃん、すごく広いよ!」
「うん!」
「お姉ちゃん、あれ!」
ラフィトが指差す方向に色彩豊かな複数のステンドグラスがあり、ラーニャは思わず「きれい」と見惚れてしまった。ふとラーニャは母であるラーナが元は貴族である事を思い出した
「ラフィ、ママは元は貴族だったんだよね。」
「お姉ちゃん?」
「もしあたしたちが貴族の子供に生まれたら、こんな暮らしができるんだよね・・・・ママはなんで駆け落ちなんてしちゃったんだろう。」
ラーニャは今になって何故、母が父と駆け落ちした事を疑問に感じた。生まれた時から慎ましく人並みの生活をしていたが生活に不自由さはあった。服も豪華なものではなく、つぎはぎだけらの服や他人からの御下がりを着るような毎日だった。ラーニャはそんな生活に内心、嫌気がさしておりいつか町を出て、綺麗な服を着たいと夢見ていた
「ママがパパと一緒にならなかったら、あたしたちは貴族の子供として生まれたわ!」
ラーニャは両親への不満を吐露した。側で聞いていたラフィットは「お姉ちゃん、まずいよ」と姉を宥めようとするがラーニャは止まらなかった
「全部、パパとママのせいだわ!ママの家もママがパパと一緒になったから無くなった!」
「お姉ちゃん!」
「貴族の子供として生まれたら、こんな御城に住めて綺麗な服も着る事ができたのに!うう、うわあああああん!」
「ううう。」
死んだ両親への不満をぶちまけたラーニャは堰を切ったように泣き始めた。それにつられて、ラフィットも静かに泣き始めた。その様子を見ていた監視役はすぐに別の監視役にこの事を伝えるとそのままこの城の主に報告に向かうのであった




