第八十四話:喧騒
「アルクエイド、アシュリー嬢、気を付けて行ってくるのよ。」
「「はい。」」
ユリアからの見送られ、アルクエイドとアシュリーはアポロ山脈付近の在郷町【アポロ町】に出発した。出発してから次の日に宿泊先の宿にて隠密から知らせが入った
「何、シリウスが死んだだと?」
「ははっ。」
「まぁ~。」
「それで死因は何だ?」
「シーツを使い、自ら首を絞めたとの事にございます。」
「南無三。」
アルクエイドとアシュリーはまさかシリウスが自殺するとは思っていなかったようで唖然とした
「それでラーナと子供たちは?」
「ははっ。町長の指示で亡くなった事を伏せております。」
「そうか。」
オルコとしてはアルクエイドが来る前に何事もなかったように出迎えたい筈であろう。もし機嫌を損ねて来なかったら全て水泡に帰してしまうのである
「閣下、如何なさいますか?」
「行くしかないでしょう、後戻りはできません。」
アルクエイドたちは準備を済ませ、アポロ町へと出発するのであった。一方、アポロ町ではシリウスを人知れず埋葬し、出迎える準備をしていた
「こんな大事な時期に勝手に死におって。」
オルコは自殺したシリウスに悪態をついた。もしこの事が露見すれば、アルクエイド等が来ない可能性がある。そうなればラーナの死後、ラーニャとラフィトをアルクエイドに引き渡す事が出来なくなる。かといって放っておくのも後味が悪いため、何としても隠し通すしかなかった
「町長!」
そこへ町民の1人が慌てた様子でオルコの下へ現れた。オルコは「何事だ?」と尋ねると耳打ちで伝えるとオルコはギョッとした表情である場所へ駆け出した。目的の場所に到着するとそこにはラーニャとラフィトがいた
「ら、ラーニャ、ラフィト、ここで何をしている?」
オルコは恐る恐る尋ねるとラーニャがオルコの方へ向くとこう答えた
「なんでパパを埋めたの?」
ラーニャからの返答にオルコは「何の事だ?」とはぐらかすとラフィトがオルコの方へ視線を向けた
「僕、見たよ。町のみんながパパを埋めているところを。」
オルコの全身に寒気が走った。まさか見られていたとは思っておらず、どう言い訳しようか考えているとラーニャとラフィトが問い詰めた
「なんでパパを埋めたの!」
「答えて!」
今にも泣き出しそうな顔で尋ねる2人にオルコは観念して理由を語った
「シリウスは人知れず亡くなったんだ。町医者に見せたが既に遅かった。」
流石に自殺したとまでは言えず、突然死したという事にした。するとラーニャとラフィトは大声で泣き始めた
「「うわわわわわん!!」」
「2人とも、すまない。」
オルコは2人を必死で慰めつつ、一刻も早くアルクエイドが来る事を切に願うばかりであった。一方、病身であったラーナは子供たちの泣く声に目を覚ました
「ラーニャとラフィトが泣いている。」
「ラーナ、目が覚めたか?」
ラーナを診察していたのはアポロ町唯一の町医者であるワガ・ポアロ【年齢55歳、身長178cm、色白の肌、白髪の短髪、眼鏡、翠目、彫りの深い怜悧な顔立ち】である
「子供たちが泣く声が聞こえた。」
「心配はいらない。町の大人たちが面倒を見ているぞ。」
「あ、会わせてちょうだい。」
ラーナの口から会わせてほしいという発言にワガは・・・・
「子供たちには後で会わせる。今は安静にしていろ。」
「もうすぐ死ぬ身に安静なんて必要ないわ、早く会わせて。」
ラーナは無理矢理、起き上がろうとしたがよろけてしまった。ワガはラーナを抱き留め、ベッドに寝かせた
「ラーナ、落ち着け。」
「落ち着けるわけないわ・・・・」
「心配しなくてもワシ等に任せておけ。」
「だ、だめ、今すぐ会わせ・・・・うほっ!うほ!」
ラーナが咳込むと口から鮮やかな赤色がベッドを染めた。ワガはすぐに薬を準備したがラーナはベッドから出ようとした
「動くんじゃない!」
「あの子たちに会わせ・・・・」
「おい、しっかりしろ!」
ラーナは途中で気絶し、ワガはラーナを抱きかかえベッドに寝かせた。ラーナの口に水薬の入った容器を入れて少しずつ水薬を注いだ。ラーナはごくりと水薬を飲んだのを確認するとワガはそっと口から離した
「(はあ~、シリウスの奴、こんな時に自殺するなんてどうかしているぞ。)」
ワガはベッドで眠るラーナを見つつ、勝手に自殺したシリウスに対して心の中で愚痴をこぼした。ワガは医療道具を仕舞った後、家を出るとそこへラーニャとラフィットを慰めつつ、他の大人たちに預けてヘトヘトな様子のオルコと会った
「町長。」
「ん、ああ、先生か。」
「どうした?」
「実はな・・・・」
オルコはこれまでの事を話すとワガは頭を抱えた
「なんてことだ。よりにもよって・・・・」
「あぁ、泣き止ませるのに苦労した。」
「だからラーナはあんなに・・・・」
「ラーナがどうしたんだ?」
「いやぁ、しきりと子供たちに会わせろと言って聞かないんだ。」
「そうか、だったら尚更会わせられないな。」
シリウスが死んだ事を知ったラーニャとラフィトは間違いなく母親であるラーナに話す可能性がある。それだけは避けたいと思ったオルコとワガはアルクエイドが来訪するまでに隠し通すしかなかった
「「(早く来てくれないかな。)」」
「ここは・・・・」
目を覚ましたラーナは周辺を見渡すとそこは辺り一面綺麗なお花畑であった
「綺麗。」
ラーナはそう呟き、ふと手を見ると自分の手を見ると病気で痩せ細った手ではなく令嬢だった頃のみずみずしくスベスベとした美しい白い肌であった。ラーナは顔や腕や髪を触り続けるとまさしく令嬢だった頃の肉体に戻っていた
「あれは。」
ラーナが目にしたのは約1mほどの大きさの水溜まりがあり、試しに覗いているとそこには駆け落ちする前の若かりし頃のラーナ・スリザリンが写っていた
「私、若返ってる!」
「ラーナ。」
「え。」
ラーナは声のした方へ振り向くとそこには両親と姉が立っていた
「お父様、お母様、お姉様。」
「ラーナ。」
ラーナは夢ではないかと試しに頬を摘まむと痛みが走った。痛みがあるという事はこれは夢ではないと悟り、両親と兄と姉の方を見た
「お父様、お母様、お兄様、お姉様!」
「ラーナ、すまなかったな。」
普段は厳格であった父が謝る姿にラーナはスリザリン伯爵家没落を尋ねた
「あ、あのスリザリン伯爵家が没落したのでは・・・・」
「何を言っているんだ、没落していないぞ?」
「えっ、だって、アルクエイド様が・・・・」
「ラーナ。」
そこへ母が話し掛けてきた。母曰く、アルクエイドがラーナを困らせるために意地悪をしたと教えてくれた
「そ、それじゃあスリザリン伯爵家は・・・・」
「没落していない、今でも残っているぞ。」
「ラーナ、夢じゃないわよ。」
母に続いて兄と姉がラーナに優しく声をかけた。それを聞いたラーナの目から涙が零れ落ちた
「ゆ、夢じゃない・・・・夢じゃなかったのね。」
優しく微笑む両親と兄と姉の姿にラーナは夢ではなく現実だとはっきりしたのである。そしてこれまでの事を謝罪し始めた
「お父様、お母様、お兄様、お姉様、私が間違っていましたわ。私はいかに世間知らずだったか思い知らされました。シリウスと駆け落ちせずに結婚すれば良かった。」
「そうか、分かればいいんだ。」
父はそう言うとゆっくりと背を背けるとそれを合図に母と兄と姉も同様に背を背け始めた。ラーナは突然の両親と兄弟の行動に混乱し始めた
「お父様、お母様、どこへ行くのですか。」
ラーナは声をかけたがラーナの方へ振り向きもせずに足早に遠くへ行き始めた
「お兄様、お姉様!」
兄と姉を呼んでもラーナの方へ振り向かずそのまま遠くへと向かっていく。ラーナは追いかけようと走ったがどんどんと遠ざかっていき、そのまま姿を消したのである
「お父様、お母様、お兄様、お姉様!!」
ラーナは消えた両親と兄弟のいた方向へ叫んだが、空しく響くばかりであった。ラーナはその場で泣き崩れると突然、グラグラと大地震が発生した。ラーナは突然の大地震に恐れ慄くとたちまち地割れが起き、辺り一面御花畑だった場所が崩れてき奈落の底へと落ちていった
「ああ!」
ラーナがいた場所も地割れが起き、それに巻き込まれたラーナは奈落の底へ落ちる直前に何とか掴める部分に捕まり、しがみついていた。ラーナは必死で掴める部分を両手で抑えて上へ這い上がろうとした瞬間、何かがラーナの足を掴んだ
「きゃあ!」
ラーナは片手を離してしまい、ふと下を見ると自分の足を掴んでいるのはシリウスであった
「ラーナ。」
「いやあ、離して!」
「さあ、一緒に行こう。」
「いやあ!!」
ラーナは必死で振りほどこうとしたがシリウスは離さずにいると掴んでいた部分が崩れた。その瞬間、ラーナはこの世の者とは思えないほどの断末魔を上げて、奈落の底へ落ちていった
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「はっ!」
その瞬間、ラーナは目を覚ました。辺りを見渡すとそこは自分の家であった。ラーナは一瞬だけ夢だと安心しつつも再び現実に引き戻された事に再び涙した
「ううう。」
ラーナはその夜、人知れず後悔に苛まれながら泣き続けるのであった




