第八十二話:仲違い
ここはアポロ山脈付近の在郷町【アポロ町】、先程まで牧歌的な雰囲気に包まれた町はアルクエイドのよる投石によって殺伐とした雰囲気に変わっていた。スリザリン伯爵家没落と家族が全員自殺した事と夫であるシリウスが黙っていた事にすっかり神経を擦り減らしたラーナは病が益々重くなり、寝たきりの生活となった。ラーニャとラフィットはそれぞれの大人の家に預けられる事になった。シリウスはというと寝たきりのラーナの看病をする事になったのである
「・・・・何故、黙ってたの。」
「・・・・何がだ。」
「実家が没落した事・・・・」
「お前の体を気遣って・・・・」
「・・・・嘘よ。貴方は嘘をつくとき、鼻をかく癖があるわ。」
シリウスは無意識に鼻をかいていた事に罰が悪そうにそっぽを向いた
「・・・・シリウス、私が死んだらあの子達をどうするの?」
ラーナが気に掛けていたのは子供たちであり、シリウスが育ててくれると思っていたがシリウスは何も言わず黙りこくった
「・・・・なんで、黙っているの?」
「・・・・」
「いや・・・・」
「私とシリウスの子供なんだから育てて貰わないと困るのよ。」
「・・・・どうしてもか。」
「当たり前じゃない。血の繋がった我が子じゃない。」
「血の繋がって我が子・・・・死んだ地主の子の間違いじゃないのか?」
地主の子供だとシリウスに指摘され、ラーナはギョッとした表情でシリウスを見た
「知っているんだぞ。お前が死んだ地主と愛人関係だった事を。」
「な、何を証拠に・・・・」
「地主に仕える使用人がコッソリ教えてくれたんだよ。それに俺が誘っても今まで無視させたのに突然、お前からしようと誘って来る時は必ず妊娠している。使用人から話を聞かされた時は反吐が出たよ!」
ラーナはまさか地主と関係を結んでいた事や子供たちが地主との子供である事がシリウスにばれてしまった事に背筋がぞっとした。するとシリウスは凄まじい形相で寝たきりのラーナを睨み付けた
「ラーナ、俺はお前と駆け落ちをした時、全てを捨てる覚悟だった。お前と手に手を取り合って慎ましくも幸せに生きようとした。にも関わらずお前は地主と関係を結び、不義の子を儲けた。それを聞かされた俺の気持ちを考えた事があるか!」
シリウスはこれまでつもりつもった不満をラーナにぶつけた。当のラーナはというと・・・・
「そ、そんなの貴方のせいじゃない!私を幸せにするといいながらずっと貧乏暮らしが続いたじゃない!その点、地主との関係の方が良かったわ!金もあるし男としても優れていたわ!」
「何だと!」
「こんな事になるんだったら駆け落ちなんてしなきゃ良かった!」
シリウスの中でプツンと堪忍袋の緒が切れた。怒りが完全に支配したシリウスはラーナの首を両手で絞め始めた
「ぐっ!ううう!」
「黙れ!黙れ!殺すぞ!」
「や、やめ・・・・」
「何をやってるんだ!」
シリウスの首を絞める力が段々と強まり、ラーナの意識が段々と遠のいていった。するとそこへ騒ぎを聞き付けた町民たちが乗り込んできてシリウスを抑え込んだ
「やめんか!」
「離せ!離してくれ!」
「ゴホッ!ゴホッ!」
「大丈夫か?」
「俺の人生を返せ!」
「大人しくしろ!」
「コイツを座敷牢に入れろ!」
町民たちによってシリウスは座敷牢に放り込まれた。ラーナは町民たちはによって交代で看病をする羽目になったのである。看病にきた町民が帰った後、ポツンと残った
「なんでこうなったのよ。」
ベッドで寝たきりになっていたラーナはひたすら自問自答していた。ラーナ自身、政略結婚の道具にさせられるのが嫌で自分に気のあるシリウスを利用して駆け落ちをしたが結果としては最悪だった
「シリウスと駆け落ちをしなきゃ良かった。」
共に駆け落ちをしたシリウスとは貴族の令嬢だった頃、使用人の1人として見ておらず本心からいって愛してなどいなかった。ただ政略結婚が嫌で嫌で逃げ出したかっただけだった。そこで考えたのは自分に気があるシリウスを利用して婚約そのものをなかった事にしようと駆け落ちをし、ほとぼりが覚めるまで遠い地にてひっそりと暮らそうである。子供を作り、その子をスリザリン伯爵家の跡取りとして据えるという端から見れば御粗末な計画であった。当初、自分とシリウスは若さもあってやれば出来ると思っていたが自分たちが思っていた以上に過酷なもので散々な結果であった。アポロ山脈付近にある在郷町【アポロ町】にようやく居を構え、ようやく落ち着きを取り戻したが、そこでの暮らし向きは貧乏であった。ラーナは当初の計画である子供も今のままでは出来ないと判断し自分に言い寄ってきた地主と愛人関係になる事でようやく貧乏生活から脱却し、後継ぎである子供を出産したのである。後は不治の病にかかり子供たちをスリザリン伯爵家の後継ぎに据えようと思った矢先にスリザリン伯爵家が没落したと知った。自分とシリウスが駆け落ちした原因でスリザリン伯爵家は周囲から敬遠され、家族が一家心中をした事で計画は水泡に帰したとなったのである
「お父様、お母様・・・・」
そんなラーナの様子を陰で見ていた隠密はラーナが寝静まったのを見計らって家を出た。そして本拠地であるロザリオ侯爵領へ帰還したのである
「御苦労であった、下がってよい。」
「ははっ!」
「・・・・早速、修羅場と化したわね。」
「そのようですね。」
「・・・・えぇ。」
隠密からの報告を聞いたユリア、アルクエイド、アシュリーは自分たちが思っている以上に殺伐した状況になっていた事に改めて身の引き締まる思いであった
「やはり恨んでいたか。」
「・・・・閣下。」
「アルクエイド、どうするつもりかしら?」
「このまま様子見ですね。飛んで火に入る夏の虫にはなりたくありませんから。」
「ふっ、なかなか臆病ぶりね。」
「図々しいよりはマシです。」
「可愛げのない子。」
「貴方の息子ですから。」
「まあ、いいわ。」
アルクエイドとユリアは互いに憎まれ口を叩きつつ今の現状を考えれば、この時期に向かうのはまさに飛んで火にいる夏の虫である。ユリアもそれを分かっているので否定もせず様子見を決め込んだ。アシュリーもこの時期に行くのはマズイと思っていたのでアルクエイドが様子見と判断した事で内心、ホッとしたのであった
「それにしてもラーナの自己中心ぶりには呆れて物が言えないわね。スリザリン伯爵家と婚約を結んだのは失敗だったわ。」
「母上、今さら昔の事をぶりかえしてもしょうがないですよ。結果として我等にも損がなかったんですから。」
「閣下の仰る通りですわ。その御方に人を見る目がなかっただけなのですから。」
「あら、アシュリー嬢。随分と辛辣な事を言うようになったじゃない。」
「私は思った事を述べたまででございます。」
「ふふふ、昔の私にそっくりだわ。アルクエイド、貴方は運が良いわね。嫁にするなら母親に似た女性を選んだ方が良いっていうわよ。」
「そうですね(ウチのオカンのようにならないでほしいわ)」
「本心で言っているのかしら?」
「ええ。」
ユリアの発言にアルクエイドは内心、アシュリーが将来、自分の母親のように図々しく下品なおばさんみたいにならないでほしいと願うのであった
「アルクエイド。貴方、今私の悪口を言ったでしょう。」
「滅相もない(鋭いな、このオバハン。)」
「そう(口に出さなくても丸分かりよ、図々しく下品なおばさんで悪かったわね、馬鹿息子。)」
「(直接、脳内に言ってきやがった!!)」
「(女性に対してそれは失礼ですわ、アルクエイド様。)」
「(アシュリー嬢まで!?)」
「(貴方の考えている事なんてお見通しよ。)」
「(そうですわよ、アルクエイド様。)」
「もう、どうにでもなれ。」




