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第八十一話:修羅場

「スリザリン伯爵家は没落した。」


ロザリオ侯爵家に仕える騎士隊隊長のバニーの口から実家が没落したと聞いたラーナは固まった。まさに時間が止まったような感覚がラーナの頭の中は真っ白になり思考が完全に停止したのである。シリウスはというとラーナに仕返しができたと思っていたがスカッとせず、むしろ何も感じなかった。最初はラーナに復讐するつもりでアルクエイド・ロザリオを利用したが途中でばれてしまい、口に出せない程の苛烈な話し合いによって完全に屈服し、心身共にすり減らしていた。ラーニャとラフィットは両親の顔を交互に見つつ徐々に不穏な空気を察し静かにしていた。そしてようやく我に返ったラーナはバニーに尋ねた


「ぼ、没落したとは・・・・」


「そのままの意味だ。そなたとこの(シリウス・マンゼン)が駆け落ちした後に、スリザリン伯爵家は没落、爵位と屋敷と領地は全てガルグマク王国に没収となった。それ故、後見人は無理との仰せだ。」


バニーから死刑宣告を告げるが如く言い分にラーナは半信半疑であった


「そ、そんな嘘よ・・・・わ、私を騙そうとしているんだわ・・・・私が結婚を嫌がったば、ばかりに・・・・」


「それだけではない、スリザリン伯爵及び伯爵夫人とその一族は皆、世間からの風評に耐えきれず首を吊って心中をした。」


バニーの口から家族が心中したという言葉にラーナは愕然とした。両親が死んだ、兄弟が死んだ、何故という思いが頭の中を駆け巡った。ラーナの心中を知ってか知らずかバニーは淡々とある事実を突きつけた


「因みにこの男は前々から知っていたぞ。そなたへの不平不満を溜めていたから今まで黙っていたと申しておったぞ。」


「えっ!」


「うう。」


「し、シリウス、嘘よね・・・・私をう、裏切るなんて・・・・」


ラーナはシリウスの方へ視線を向け尋ねたが、肝心のシリウスは罰が悪そうに顔を背けていた。シリウスの様子に本当だと悟ったラーナは眩暈を起こした


「あああ。」


「「ママ!」」


倒れそうになったラーナをラーニャとラフィトたちが必死で支えた。ラーナの倒れる様子をシリウスは何もせず黙って見ていた。シリウスの心中は完全に何もない無の状態であり、喜びも悲しみも怒りも何も感じなかった


「あああ、じ、実家が・・・・スリザリン伯爵家が・・・・」


「「パパ、ママが!」」


絶望の境地にいたラーナをラーニャとラフィトが支えつつ、シリウスに助けを求めたが当のシリウスは唯々見続けるしかなかった


「では我等はこれにて失礼する。」


バニーは用件を済ませたとばかりにロザリオ侯爵領へ帰還する事にした。騎士隊が町を去った後、町民たちがラーナをベッドに寝かせた。シリウスは一部の町民から「どういう事だ」とか「何を隠している」とか厳しく問い質された。ラーニャとラフィトは物々しい雰囲気に思わず泣き出してしまい、町のおばさんたちに慰めたのである。ユリアのいう通り、そこは完全に修羅場と化していたのであった








「御報告は以上にございます。」


「うむ、御苦労であった、下がってよい。」


数日後にバニーから報告を受けたアルクエイドたちはやはり修羅場が発生したかと薄々感じていたのである。バニーを下がらせた後、部屋にはアルクエイドとアシュリーとユリアとジュリアだけとなった


「分かってはいたが、やはり修羅場が起きたか。」


「閣下、どうなさいますか?」


「どうとは?」


「アポロ山脈に向かうかどうかです。」


「あぁ、その事ですか。」


アルクエイドはアポロ山脈に行くかどうか迷っていた。今行けば確実に修羅場に巻き込まれる形になるので行くのは得策ではない事は誰の目から見ても明らかである。ユリアもジュリアも何も言わず息子(当主)であるアルクエイドの一挙手一投足を見守った。考えて出した結論は・・・・


「しばらく様子見ですね。」


「様子見ですか。」


「えぇ、わざわざ火中の栗を拾う事はしたくありませんから、ほとぼりが冷めるまで待とう。」


「その方が良いわね。」


「右に同じく。」


ユリアとジュリアはアルクエイドの判断に同調した。アシュリーはユリアとジュリアが同調するのを見て何も言わずアルクエイドの判断に従う事にした。それからはアポロ山脈に行かず、ロザリオ侯爵領に滞在する事となった。念のために隠密を送り、監視させている。アルクエイドはアシュリーと一緒に屋敷の庭園にて御茶会をしていた


「閣下、シェズの事を覚えていますか?」


「ああ、あやつが何か?」


「はい、私がかつてシェズの事が好きだったこと伝えましたよね。」


「ええ。」


「私は閣下との婚約が嫌でシェズと駆け落ちをしようと考えていました。でも閣下の元婚約者とその実家の件、シェズの裏切り、そして閣下との交流もあって踏み止まる事ができました。結果としてこれで良かったと思います。」


アシュリーは昔の事を思い出していた。成金で女遊びが激しいと評判のアルクエイド・ロザリオとの婚約を勝手に進めようとした父に反発した。兄と共にアルクエイド・ロザリオに会った際も貴族としての誇りがないのかとアルクエイドを罵倒した事は今になって恥ずかしい事としたと思う。そんな矢先にシェズが侍女のクラリスと交際した事がきっかけでアルクエイドと交流を始めた。アルクエイドと交流するうちに彼の人柄に触れて自然と心が絆されていき、この人となら結婚しても良いと考えるようになった。その後、クラリスの実家であるハーゲン男爵家が不正を働いた事でハーゲン男爵家は断絶しクラリスは警備隊に逮捕されてからは刑務所に送られたと聞く。一方でクラリスが警備隊に連れていかれるのを素知らぬ顔で見ていたシェズに軽蔑を抱いたのはいうまでもなかった


「あの者の本性を知らずに駆け落ちしていたら、恐らく私はシェズに良いように操られていた可能性があります。」


「なるほど。」


「閣下の元婚約者であったラーナは実家が没落したのを知らず、夫であるシリウスと共に手を取り合ったにも関わらず、夫を裏切って地主の愛人となり2人の子供を産み、その子供を夫の子供として扱い、更にスリザリン伯爵家に養子入りするために閣下を利用したんですから。私から言わせれば自業自得です。」


「確かに。」


「閣下、1つ質問しても構いませんか?」


「何でしょう?」


「子供たちはどうするのですか?」


「子供たちとはラーナの息子と娘の事ですか?」


「はい。あの(シリウス・マルゼン)にとっては血の繋がらない赤の他人ですから。」


アシュリーの口からラーナの子供であるラーニャとラフィトをどうするのか尋ねた。アルクエイドとしては正直、考えていなかった


「正直、考えていませんね。こればかりはあの者たちの問題ですから。もしかしたらシリウスが子供たちを我が子として育てる可能性もありますからね。」


「・・・・そうですか。」


「心配ですか。」


「子供に罪はございませんから。」


アシュリーのいう通り、子供に罪はない。ラーナが地主との間にできた子供たちは正直、どうなるか分からない。シリウスがラーニャとラフィトを捨てる可能性もあるし子供たちを放っておくのもバツが悪い感じはする


「まあ、場合によっては子供たちを私の経営する孤児院に入れるのもやぶさかではありません。」


「場合によっては・・・・」


「ええ、ラーナの死後、シリウスが血の繋がらない赤の他人を見捨てる可能性もありますからね。事と次第によっては虐待をする恐れもある。」


「・・・・そうですか。」


アルクエイドとアシュリーはアポロ山脈での修羅場を遠巻きに眺めつつ、静かに一日を過ごすのであった




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