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第七十四話:過去の来襲

ハルバード王国との戦争終結後、ハルバード王国から支払われた莫大な賠償金によってガルグマク王国は空前の好景気を迎えていた


「旦那様、貴族も平民も先の戦争の賠償金で豊かな暮らしができましたな。」


「ああ、多くの貴族は貧乏は解消された。まあ、私の商売も鰻登りだしな。」


アルクエイドとジュードは官民問わず、豊かな暮らしができるようになった事を心の底から喜んだ。官民問わず、誰もがガルグマク王国の隆盛期というべきは繁栄ぶりを享受したのである


「まさに禍を転じて福と為すだな♪」


そんなある日の事、アルクエイドの下へガルグマク王国国営の研究所の所長が尋ねてきた


「ロザリオ侯爵閣下、ケシの花を使った新しい麻酔薬【現代で言うモルヒネ】にございます。」


「おお、出来上がったか。」


新しく開発した麻酔薬に資金を投じたアルクエイドに対する御礼と開発報告をしにきたのである。一般的にケシの花は麻薬の材料として特に有名な【ヘロイン】は現代でも問題視されているが、医療用として【モルヒネ】という鎮痛鎮静剤として医学・薬学的に重要であり、特にガン患者の激痛緩和や麻酔科、ペインクリニックでの治療に不可欠であり、医師の処方に依る適切な使用に基づけば依存症に陥ることもない


「それで結果の方は?」


「はい、麻酔薬としては適量であれば麻酔薬として役立ちます。ただ服用しすぎれば依存症を起こします。」


「そうか、分かった。取りあえずケシの花を使った麻酔薬は医療用のみに留めておきなさい。余所に流失して悪用されては、かなわないからな。」


「心得ております。」


「うむ、結構。」


「では私はこれにて失礼いたします。」


「うむ、ジュード。」


「ははっ。」


所長を見送った後、入れ替わるように笑みを絶やさない一人の小太りの商人が現れた。商人はあるものをアルクエイドに提示し場合によっては推薦状をいただくべく参上したのである


「ロザリオ侯爵閣下、ケシの花を使った嗜好品【現代でいうヘロイン】にございます。」


「・・・・ほお~(完全に麻薬じゃないのよ!)」


「服用すればたちまちこの世のものとは思えない満ち足りた心地になります。」


「・・・・念のために尋ねるが他に誰が使用した?」


「使用人のみで表には出しておりません。」


「・・・・そうか。」


「それで如何でしょうか?」


「せっかくだがお断りする。」


アルクエイドの口から断ると聞いた商人は笑みを絶やさずに「理由を知りたい」と尋ねるとアルクエイドは理由を語った


「貴殿の商品は些か危険だ。貴殿の申す事が本当であれば一時の幸福感は得られるが、もしもその嗜好品に依存した場合、服用した人間はどのような状態になるか考えた事はあるかね?」


「と、申しますと?」


「うむ、ケシは使い方を間違えれば人を苦しめる劇薬かつ毒薬だ。服用し続けた人間は地獄の苦しみを味わう事になるだろう。まあ、使い方を間違えさえしなければいいだけの話だがな。」


「は、はあ~。」


「それにガルグマク王国国営の研究所に無断でそのような物を作ったとなれば向こうも黙ってはいないであろうな。」


それを聞いた商人の顔から笑みが消えて表情は青褪め始めた。ガルグマク王国国営の研究所という名を聞いた商人は自分が危ない橋を渡っている事に気付いたのである。その様子を見たアルクエイドはこれはクロだと確信したのである


「こ、これは失礼致しました!」


「そうか、分かれば良い・・・・ジュード。」


「ははっ。」


ジュードが指パッチンをするとそこへ数人の隠密が現れ、電光石火の早業でその商人を捕縛したのである。商人は何が起こったのか困惑した


「か、閣下、これは一体!」


「決まっているだろう、国営の研究所を無断で作り、売ろうとしたのだ。どれほど重い罪を犯したか、流石のそなたも理解しておろう。」


アルクエイドがそう言うと商人は愕然とした表情を浮かべ、項垂れていた。抵抗しなくなった商人は隠密たちによって縄で縛られ警備隊に引き渡したのである。その後の調べで嗜好品を服用した使用人たちは依存症を起こし、ひたすら「薬、薬をくれ!」と騒ぎ立てた。国営の研究所に無断で作った事も相まって例の嗜好品【ヘロイン】は危険物として処分され、商人の経営する店や一家は全員お縄についたのは言うまでもなかった


「一件落着にございましたな、旦那様。」


「ああ。」


商人の嗜好品騒動が一段落してから数日後、アルクエイドは大きなクシャミを連発した


「ハックシュ!ハクシュ!・・・・ああ。」


アルクエイドはロザリオ侯爵邸の執務室にて仕事をしていると突然、クシャミに襲われたのである。アルクエイドはタダのクシャミなら「まぁ、いいや」とそのまま仕事を続けた。するとコンコンと扉をノック音がして入室の許可を出した。入ってきたのはジュードである


「旦那様。」


「ジュードか、如何した?」


「ははっ、御母堂様より御手紙が届きました。」


「母上から?これへ。」


「ははっ。」


ジュードから手紙を受け取ったアルクエイドは封を切り、手紙を広げ内容を拝読した






【我が息子、アルクエイド・ロザリオへ】

「突然の手紙、さぞ驚いたでしょうね。実は貴方の元婚約者と駆け落ちした想い人、今は夫が屋敷にやって来ましてね、何でも元婚約者が重い病に罹ったらしく長くは持たないそうですって(笑)、ざまあみろってんだ。ホント、どのツラして会いに来たのやら、全く失礼にも程があるわ。まぁ、どうするかは貴方が決めてちょうだいな(笑)、それじゃあ後はよろしく(笑)」

【貴方の愛しの母、ユリア・ロザリオより】







「何、マジで面倒事を押し付けやがったんだ、あのババア。」


「旦那様、口が悪うございますよ。それで内容は何と?」


「ほれ。」


「拝見致します。」


アルクエイドから手紙を受け取ったジュードは内容を拝読した途端、頭を抱えた。ジュードも過去の事を思い出し、何故この時期にこんな手紙が届ける御母堂(ユリア・ロザリオ)の行動にアルクエイド同様、文句を言いたくなったがグッと堪え、アルクエイドの方へ視線を向けた


「それで如何なされるので?」


「決まってるだろ、貴族だった頃ならともかく貴族の身分を捨てて想い人と駆け落ちして実家を没落させ、家族を自殺に追い込んだ張本人の呼び出しに誰が応じるか。」


「はあ~。」


「いつまでも貴族の令嬢の気分だったら虫唾が走るわ!」


アルクエイドがそう言うと廃棄予定の紙をグシャグシャに丸めてそのまま暖炉に向けて投げ捨てた。アルクエイドからすればどのツラ下げて、こんな手紙を寄越してきたのかと文句をつけたくなる。ましてや自分との婚約を避け、実家を没落させ身内を犠牲にしてまで駆け落ちしたというのに今になって元婚約者の自分に会いたい等とか同性(今は男だけど)として1人の人間としてあり得ない話だ


「母上にはこう言っておいて、そのまま想い人と共に最期を過ごせとね。」


「畏まりました。」


アルクエイドは過去の事を思い出していた。アルクエイドと元婚約者との間には両家の親同士が決めた関係でしかなく当たり障りのない関係を築いていた。そんなある日、突然元婚約者が想い人と駆け落ちをしたのである。置き手紙には「探さないでください」という1文だけで金目のものも粗方無くなっていたという。当然の事をながら元婚約者が失踪した事で元婚約者の実家はロザリオ伯爵家(当時のロザリオ侯爵家)に謝罪の上、慰謝料を支払った。当然の事ながら元婚約者の駆け落ちは社交界に広がり、元婚約者の実家は周囲から白い目で見られ、親戚筋の家々から絶縁状を叩き付けられ、徐々に孤立し最後は一家心中をしたのである


「(元婚約者の実家には色々とよくして貰ったから一家全員が自殺した時は本当に答えたわ。)」


アルクエイド(転生者)は元婚約者の実家が没落した事で改めて貴族に生まれたから将来は安泰とは限らないという事を重い知らされた瞬間であった


「(まぁ、せいぜい恋人と共に静かに暮らしなさいな。)」


アルクエイドは元婚約者とその恋人(今は夫)に対してそう呟きつつ、仕事を続けた。それから2週間後、レオンとアシュリーがロザリオ侯爵邸に訪れていた、何やら神妙な面持ちで・・・・


「閣下、元婚約者の夫と名乗る御方が閣下の御領地に訪れたのは本当ですか?」


アシュリーからそう尋ねられると、アルクエイドはどうやって知ったのか尋ねた


「アシュリー嬢、それをどうやって?」


「閣下、それは私が説明します。」


アシュリーに代わってレオンが説明をした。レオン曰く、アルクエイドの元婚約者の夫がアルクエイドの現婚約者の実家であるゴルテア侯爵領に訪れ、例の件を訴えたと知らせが来たのだという。その知らせを聞いたアルクエイドは頭を抱えた


「どこまで迷惑掛ければ気が済むんだ。」


「因みにその男は牢の中に入れています、どのような理由であれ、ゴルテア侯爵家に押しかけたのですから。」


「皆様には御迷惑をおかけして本当に申し訳ない。」


「あの、閣下。」


アルクエイドがゴルテア侯爵家に迷惑をかけた事を謝罪するとアシュリーが話し掛けた。レオンは「今度は何だ」という怪訝そうな顔でアシュリーを見ていた。するとアシュリーの口から予想外な事を言ってきた


「私と一緒にその御方に会いに行きませんか?」


「はい?」


「お、おい!」


アルクエイドはアシュリーの発言に呆気に取られ、レオンはアシュリーを凝視した。我に返ったアルクエイドは理由を尋ねた


「アシュリー嬢、何故そのような事を?」


「決まっていますわ、見せつけるためです。」


「見せつける?」


「はい、閣下を捨てた元婚約者に私と閣下の幸せな姿を見せつけるためです。そして元婚約者に対し【貴方に感謝しています。閣下を夫として迎え入れた事を】という言葉を一言一句そのまま伝えます。」


アシュリーの提案におもわず苦笑いを浮かべた。レオンからは「お前、いい性格してるな」と皮肉を述べた。アルクエイドの中で何かが吹っ切れたのかアシュリーの提案を受け入れる事にした


「アシュリー嬢、貴方は最高の婚約者だわ・・・・その提案に乗りましょう。」


「えっ!アシュリーの戯言を聞き入れて宜しいのですか!それに今は貴族ではなく平民ですよ!」


アシュリーの提案を受け入れたアルクエイドにレオンが待ったをかけた。レオンからしてみれば想い人と一緒になるためとはいえ実家を没落させ、一家心中にまで追い込んだ張本人に会う事自体、憚られる事である。しかも平民相手に貴族が直々に尋ねる事自体、あり得ないのである。アルクエイドはレオンの方に視線を向け、理由を述べ始めた


「令息殿の申されたい事は分かります。私も最初は会うつもりなかった。だがアシュリー嬢の提案を聞いて今までの鬱憤を晴らす事ができると考えた次第です。」


「あ、ああ~。」


アルクエイドの説明にレオンも何となくではあるが納得した。アルクエイドとの婚約を拒絶した元婚約者よりも年下のアシュリーを連れて自慢する姿を思い浮かんだのである


「お兄様、こればかりは私と閣下の問題ですので御口出ししないでくださいませ。」


「お前なぁ~。」


「ナミリヤ伯爵令嬢と婚姻したくて我儘を申された御方が言うと説得力がありませんわよ。」


「うっ。」


アシュリーから図星をつかれてレオンは閉口した。そんな2人の遣り取りをアルクエイドは苦笑いを浮かべた


「では閣下。早速、行動に移しましょう。」


「落ち着かれよ、アシュリー嬢。まずは道案内が必要でしょう。」


「そうでしたわね、お兄様。牢に捕らえられている元婚約者の旦那様を解放してくださいませ。」


「俺に言うなよ、決めるのは父上だぞ。」


「ごちゃごちゃ申されますな、ほら早く!」


「わ、分かったよ。」


その後、アルクエイドはアシュリーとレオンと共にゴルテア侯爵邸に参り、クリフとエリナに例の件を伝えた。案の定、2人からは辞めるよう説得された


「ロザリオ侯爵殿、相手は貴族の身分を捨てた平民、いくら相手が余命幾ばくもないとはいえ、会いに行くのはどうかと思うが。」


「ゴルテア侯爵閣下の仰りたい事はよく分かります。」


「そうですわ。閣下も最初は会うつもりはなかったのでしょう。いくらアシュリーの提案だからといってそれは・・・・」


「お気持ちは分かります、まあ私がアシュリー嬢の提案に乗ったのは私なりのケジメです。」


「「ケジメ?」」


「ええ、過去との決着です。」


アルクエイドの言葉にクリフとエリナはこれ以上、何を言っても無駄と悟り、了承し元婚約者の夫を釈放となった。その後、母であるユリアにアシュリーと共に元婚約者に会う事にした旨を手紙で送った。1週間後、ユリアからの返書が届いた。返書には「徹底的にやりなさい、後は領地に寄りなさい。」と激励を送られた。国王グレゴリーにも王都を出る旨と理由をありのまま知らせるとグレゴリーからは「後腐れなくケジメをつけろ」と母同様、激励を送られた。元婚約者の下へ行く準備を進める一方でアルクエイドはアシュリーに尋ねた


「アシュリー、最後に尋ねるが本当に付き合うか?」


「はい、旅は大好きですわ、アルクエイド様。」


「よし。」


「そういうアルクエイド様はどうですか?」


「ふん、愚問だ。」


「そうですわね。」


「「それじゃあ行くか(行きますか)!」」

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