第七十三話:暴君の一生
「な、何だ!この和睦案は!」
ガルグマク王国とネマール国から提示された和睦案にウルザは驚愕した。こちらが圧倒的に不利になる条件ばかりにウルザは憤慨した
「おのれえええ、初戦に勝利したからっていい気になりおって(怒)」
「陛下、どうかお怒りをお鎮めください!」
ウルザを制止しているのは新たに宰相に任じられたアドニス・ウォン公爵【年齢50歳、身長175cm、色白の肌、白髪のある金色の短髪、碧眼、彫りの深い幸の薄そうな神経質な顔立ち、生真面目な性格、胃痛持ち、ウォン公爵家当主】、本人自体は宰相になる気はなかったが消極法で選ばれたのである。今日も胃痛と目の前にいる主君を抑えながら頑張るのである
「陛下から和睦を持ち掛けた以上、我等は両国の要求に従う他は・・・・」
「余が奴等に頭を下げろと言いたいのか!」
「いいえ、そのような事は・・・・」
「おのれええええ、せっかく手を差し伸べてやったというのに・・・・くそ!」
和睦を考えていた当時のウルザは人間不信及び幽霊騒ぎもあって気が弱くなっていたが、ガルグマク&ネマール両国からの和睦案でいつもの状態に戻ったのである
「くそ!こうなれば今すぐに兵を差し向けて・・・・」
「それはなりませぬ!国力は回復しておらず官民問わず不満を抱いております!そうなれば間違いなく反乱が起きます!」
「上等ではないか!余に逆らえばどうなるか、思い知らせてくれるわ!」
「陛下!それはなりませぬ!国軍の中にも陛下の御親政に不満を募らせ、反乱に同調致します!」
「同調・・・・謀反を起こすだと?」
「はい。最早、誰一人陛下に従う者はおりませぬ!」
アドニスの直言にウルザは閉口した。国軍までもが自分に不満を抱き、反乱を起こそうとしていると知ったウルザの背筋が凍った
「だ、だったら、どうすれば良いのだ!賠償金といても金はないのだぞ!」
「・・・・1つだけ手がございます。」
「何だ!申してみよ!」
「はい・・・・近隣諸国に金を借りるのです。」
「借りるだと・・・・ちょっと待て、借りるということは担保が必要になるぞ!」
「・・・・此ればかりはやむを得ません。最悪、人質か領地を差し出す他はありません。」
「よ、余は認めぬぞ、このようなもの!」
「は、はぁ。」
「こうなれば重税だ、身分を問わず根こそぎ搾り取るぞ!」
「陛下、そのような事をすれば間違いなく反乱が起きます。それを機に静観をしている他国から攻められます。それこそサルマン王国の二の舞ですな。」
「うっ。」
「どうなされますか?」
「・・・・もうよい、下がれ。」
「ははっ。」
アドニスが去った後、残されたウルザは途方に暮れていた。他国に金を貸す等、ハルバード王国の恥を外部に晒すようなもの、かといって長引けばハルバード王国の国軍が反乱を起こす可能性もある。元々、自分が起こした婚約破棄&戦争であり、引くに引けない状況に立たされたウルザは今になって後悔し始めた
「くそ、元を正せばあの女狐と腹黒親子のせいだ!余は悪くない、あの親子に騙されていたんだ!」
ウルザ自体が婚約破棄を決行したのがそもそもの原因なのだが自分の責任にはしたくなく誰かのせいにしないと気がすまなかった
「あんな女狐と一緒になるくらいだったらビビと一緒になれば良かった。」
思えばあの時、アルルと出会わずにビビと一緒になっていればこんな状況にはなっていなかったはずだと何度も考えた。改めてビビに婚約破棄を告げたのは不味かったと心底思った。
「・・・・どうすればいいんだ。」
ウルザはどうすべきか、ない知恵を振り絞って考えに考え抜いた結果、アドニスの言う通り他国から金を借りるしか選択肢しかなかった
「誰かウォン公爵を呼べ!」
それから1ヶ月後にガルグマク王国&ネマール国とハルバード王国との間に和睦が成立した。ハルバード王国要望通りにはガルグマク王国には多額の賠償金、ネマール国には賠償金と領地の割譲をし戦争は終結したのである。賠償金はどうしたのかというとアドニスの言う通りに他国から借りたものである。勿論、タダというわけではなく他国からは領地の割譲を求められた。ウルザはこれを渋々、承認しハルバード王国の領地を割譲した。ハルバード王国の面積は大幅に縮小され、今ではネマール国と同等の面積となった。勿論、ハルバード王国中は官民問わずウルザの失政と弱腰に反感を抱いたのは言うまでもなかった
「俺たちは何のために戦ってきたんだ!」
「そうだ、あんな我儘王のために俺は家族を犠牲にしたんだぞ!」
「俺の母さんは重税のせいで飢え死にしてしまったんだ!」
「そうよ、父も夫も息子を無理矢理、連れていかれて残された者の事を考えなさいよ!」
「こんな王の元で生活はできない、他国へ亡命するぞ!」
「こうなれば独立するしかない!」
官民たちの怨嗟の声はウルザの耳にも届いていた。当然のように秘密警察【ハイエナ】を使って取り締まりを行ったが逆に捕らえられ、見せしめのために殺される等、火に油を注ぐ結果となった
「くそ!」
秘密警察【ハイエナ】が殺された事でウルザは国軍を使って取り締まろうとしたがアドニスに待ったをかけられた
「陛下、なりませぬ!それこそ反乱を引き起こします!」
「ではどうすれば良いと言うのだ!」
「陛下、ここは慈悲を見せるべきかと!」
「慈悲だと?」
「ははっ、まずは今年と来年の税金は免除し、再来年からは減税に努めます。」
「税金の免除の上、減税だと!只でさえ金がないのに!」
「そこは我慢をせねばなりませぬな。」
「ほ、他にはないのか!」
「ありません。」
アドニスの断言によりウルザは渋々ながら従う他なかった。ウルザはハルバード王国内に今年と来年の税金は免除、再来年の税金は半分に減税をすると高札にて発表したのである。官民問わず少しはマシになったとウルザの行いに感心した。ウルザはというとこれから慎ましい生活をせざるを得なくなった。それからのウルザの生活は非常に慎ましいもので食事量は制限され、服装も着回ししながら政治に努めた。財政については王家の財宝を売り払って何とか金は工面した
「今日もイワシか・・・・はぁ~。」
ウルザは3食イワシのみの生活を送る羽目となった。政治もアドニスの補佐の下で行われた。国王の権限も大幅に軽減され、ウルザの好き勝手にはできなくなった。ウルザは今になって自分の仕出かした事の重大さを思い知らされたのである
「余は何のためにあんな事をしたんだ・・・・やり直せるならやり直したい(涙)」
ウルザは涙ながらに後悔の毎日を送ることになった。その後のハルバード王国はというと周辺諸国からの圧力に晒されながらも、何とか存続させる事に成功した
「うう、く、苦しい・・・・だ、誰か・・・・ぐふっ。」
世継ぎも無事に成人した事でウルザは最早、用無しとばかりに側近たちによって毒を盛られ暗殺された後、非常に簡素な墓を立てられ、その上に金網を被せられるほどの厳しい処置がとられた。ウルザ・ハルバードはハルバード王国最大の暴君兼暗君として歴史に名を刻まれ、子孫たちに生前のウルザの所業を聞かせた。彼のようにならないよう戒めるのであった




