第六十七話:陣中見舞い
ハルバード王国では盛大な閲兵式が行われていた。新たに国王となったウルザ・ハルバードはガルグマク王国及びネマール国討伐に向け、国民徴兵令を発令し軍船の建造を開始していた
「王妃よ、そなたは私の妻としてしかと支えよ。もし裏切れば分かっているだろうな?」
「は、はい。」
アルル・ブリザリン改め、王妃アルル・ハルバードはウルザの妻となった。しかしそれは本人が喜ぶものではなかった。想い人であったウルザが目の前で父親を殺し、戦争を起こそうとしている。アルルは改めて、自分の仕出かした事を後悔し始めた。念願の王妃になったものの自分が思い描いていた夢とは真逆な展開になった事にどうしようもなかった
「さあ!我が軍の精鋭たちよ!正義は我等にあり!」
「(こんな事なら王妃にならなきゃ良かった)」
誰もこの暴君を止める者がおらず、ただただ付き従うのみであった
「(何でこんな事になったのよ!!)」
「どうした、ロザリオ侯爵。」
「いいえ、何でもございません。」
ガルグマク王国はネマール国に援軍を送る前に士気向上のために使節団を送った。使節団の正使はレミリアの父であるレオナルド・ガルグマクとなり、レオナルド・ガルグマク公爵の補佐役として副使のアルクエイド・ロザリオ侯爵を派遣したのである
「(何で私が副使なのよ!アシュリーからは【ご武運をお祈り致します】って言われるし、ジュードたちからは【ロザリオ侯爵閣下、万歳】と万歳三唱するわ、完全に死亡フラグが立ってるじゃない!只でさえガルグマクとハルバードの問題なのに向こうからすれば飛んだとばっちりだわ!)」
アルクエイドはネマール国に入国する事に不安を抱いていた。何せガルグマク王国とハルバード王国の間で起きた問題なのに両国に挟まれたネマール国が巻き沿いを食った形となったのである。向こうからすれば戦争の引き金となったガルグマク王国を快く思わないだろう。アルクエイドは自分自身の天性の勘を呪いつつ、国の命となれば仕方なしと思い、レオナルドと共にネマール国に乗り込んだ。レオナルドとアルクエイド率いる使節団は朝議の場に入ると玉座には既に国王のジョージ・ネマール、宰相のロング・ロドリゲス、元帥のプロイア・ヴァルカン、そして武官文官から殺伐した雰囲気が出ておりガルグマク王国の使節団は気を引き締めた
「「拝謁致します。」」
「ようこそ、おいでくだされた、楽にされよ。」
「「ありがとうございます。」」
「早速だがガルグマク王国から援軍を寄越す旨は承知してくだされるのか?」
「えぇ、我が国と貴国は長らく友好を結んでおり、味方をするのは当然にございます。」
ジョージの問いにレオナルドは一切の迷いなく滔々と答えると宰相のロングが尋ねた
「一つお尋ね致しますが貴国とハルバード王国との仲違いの件、畏れ多くもビビ王女が関わっていると聞いたが?」
「はい、元を正せばハルバード王国先王から申し出であり、王太子・・・・現国王が毒婦と奸臣に誑かされ、婚約破棄に至り申した。本来であれば国同士の同盟にも関わらず、それすらも守らない国に信義を求めるのは無駄かと存じます。」
「それは貴国とハルバード王国の問題で我が国は関係ないのではないか?」
ロングの問いにレオナルドはありのままを伝えると一人の文官が異議を唱えた
「それはどう意味で?」
「そのままの意味だ。貴国とハルバード王国の問題に我が国が巻き込まれたような形になったではないか!」
「「「「「そうだ、そうだ!」」」」」
文官の一声に他の文官たちも同調するように声を張り上げた。そんな文官たちにロングは「鎮まれ、無礼であるぞ!」と叱りつけた。武官たちも「今更、ガルグマクを責めても戦争は避けられない」と文官たちを叱りつけたが文官たちは「戦争を商売にしている輩に我等の気持ちが分かるか」と言い返した。するとそこからは売り言葉に買い言葉の連続であり、元帥のプロイアは「鎮まらんか、使節団の前だぞ」と叱咤すると文官も武官もバツが悪そうに黙りこくった。そんな現状を見たアルクエイドは・・・・
「はあ~、もう宜しいです。ガルグマク公爵閣下、我等はこのまま帰国致しましょう。」
アルクエイドの口から帰国すると言い放った瞬間、国王のジョージがアルクエイドを見据えた
「帰国とはどういう事だ?」
「これは御無礼を致しました。我等はあくまで国からの命で参りました。役目が終わった以上、我等は国に帰ります。御心配には及びません、我が国は必ずや援軍を差し向けます故。」
「待たれよ!それはあまりにも薄情ではないのか!」
そこへプロイアが薄情だと言い放った。するとアルクエイドはプロイアに目線を変えてこう答えた
「御言葉を返すようですが敵が迫っているというのに武官文官が売り言葉に買い言葉の応酬をしている時点でどうなのかと私は思いますが?」
「「「「「何!」」」」」
「それはそうでしょう、一枚岩ではない国が敵と戦ったところで勝ち目のある戦争も勝てませぬ。」
「何だと!」
「言わせておけば!」
「止めぬか!」
すると武官文官は一斉にアルクエイドに食いかかったがロングが待ったをかけた。レオナルドは「流石に言いすぎだ」とアルクエイドを嗜めるとアルクエイドは「失礼致しました」と謝罪をした。レオナルドはジョージの方へ視線を向けると「まことに不躾かと存じますが我等はこれより帰国致します」と直言した。するとジョージが「皆の者、下がっておれ。正使殿、副使殿と話がしたい。ロング、プロイア、そなたらは残れ」と命じた。レオナルドとアルクエイドは「(今度は何だ)」と心中思いつつも武官と文官たちは渋々、朝議の場を退出した。残ったのはジョージ、ロング、プロイア、レオナルド、アルクエイドの5人だけとなった。するとジョージはアルクエイドに視線を向け、尋ねて来た
「副使殿、そなたは勝ち目のある戦争と申したな?」
「御意にございます。」
「ではこの戦争は我等に勝機があると申すか?」
「はあ・・・・」
「如何した?」
「ロザリオ侯爵、私に遠慮は無用だ。ありのままを答えよ。」
レオナルドが遠慮は無用とアルクエイドに言うと、許可を得たアルクエイドはありのままを答えた
「では申し上げます、この戦争は水上戦が主力となります。水上戦においてネマール国の方が圧倒的有利にございます。ハルバード王国が大量の軍船を作ったとしても不慣れな水上戦に苦戦致します。」
「うむ。」
「後、気を付けるべきは内応にございます。」
「聞かせよ。」
「ははっ、水上戦で敵わないと悟ったハルバード王国が次に出る手は寝返りでしょう。まずはハルバード王国からスパイとして身内や知人が関係者に接近し内応を持ち掛ける事、次に敵将が投降を偽って関係者に接近し内応する事にございます。特に貴国の軍陣営が真っ先に狙われます。」
「確かにその線はあるな。」
アルクエイドの考えにプロイアは賛同し、ジョージやロングも頷いた
「そこで敢えて殺さず偽りの情報をスパイや投降者に授け、ハルバード陣営を撹乱させるべきかと存じます。」
「うむ、それで敵の軍船をどうやって対処致すので?」
プロイアが再度、尋ねるとアルクエイドはある賭けに出た
「畏れながら私は軍の事に関しては素人同然にございます。そこはその道の達人である元帥殿が一番御存じなのでは?」
アルクエイドがそう言うとプロイアは先程の険しい表情から一転し満面の笑みを浮かべた
「うむ、貴殿は我が国の文官と違って話が分かるようだな。」
「畏れ入ります(こういった男はヨイショとした方が力を発揮するのよね。)」
「陛下。この戦争、必ずや勝ちまする。」
プロイアがそう言うとジョージは「うむ」と頷いた
「副使殿、そなたの策はまさに闇夜を照らす光だ、礼を申すぞ。」
「ははっ!」
「援軍の事、しかと頼んだぞ。」
「「ははっ!」」
無事に役目を終えてガルグマク王国へ帰国する途中でレオナルドがアルクエイドに尋ねた
「ロザリオ侯爵、先程の策、よく思い付いたな。」
「まぁ、あの策は先人の知恵を御借りしたまでの事にございます。」
「うむ、そうか。」
「(三○志の○壁の戦いを思い出しただけだけどね。)」
アルクエイドは心の中で呟きつつ、悠々と帰国するのであった




